【徹底解説】実質賃金とは?中小企業経営者・個人事業主が押さえるべき基礎知識と対策
物価が上がる今こそ知っておきたい「実質賃金」の本当の意味
昨今の物価上昇は企業経営に大きな影響を及ぼしていますが、同時に従業員の生活水準にも直撃しています。その指標となるのが「実質賃金」です。しかし、「名目賃金が上がっているのに、なぜ不満が出るのか」と疑問に思う経営者も少なくありません。本記事では、実質賃金の意味と重要性、計算方法、企業がとるべき対応策までをわかりやすく解説します。
実質賃金とは何か?
実質賃金の定義
実質賃金とは、労働者が実際に購入できるモノやサービスの量、すなわち「賃金の購買力」を示す指標です。名目賃金(貨幣額)を物価で割ったもので、以下のような式で表されます。
実質賃金 = 名目賃金 ÷ 消費者物価指数(CPI)
名目賃金が増えても物価がそれ以上に上昇すれば、実質賃金は下がるため、生活水準は悪化します。
実質賃金の計算例
たとえば、ある従業員の名目月給が25万円だったとして、CPIが前年より5%上昇していれば、実質賃金は以下のようになります。
250,000 ÷ 1.05 ≒ 238,095円
つまり、実際の購買力は約1万2000円分減少しているのです。
名目賃金との違いとは?
名目賃金とは
名目賃金とは、そのまま手取りや総支給額など、貨幣価値で見た賃金です。年収300万円、月給25万円など、一般的に私たちが「給料」と聞いてイメージする金額です。
なぜ実質賃金で考える必要があるのか?
名目賃金だけで労働者の実態を把握することは難しく、物価変動による影響を無視してしまうことになります。たとえば、5%の昇給をしても、同年にインフレ率が7%であれば、実質的には給与の価値は「減っている」のです。
実質賃金の動向と中小企業への影響
実質賃金の長期トレンド
日本の実質賃金は、1990年代後半をピークにほぼ横ばい、あるいは減少傾向にあります。とくに近年では、物価上昇(インフレ)に賃金上昇が追いついていない「実質賃金のマイナス」が続いています。
中小企業への影響
- 人材確保が困難に:実質賃金が下がれば、従業員満足度は低下し、離職率が上昇します。
- 求人競争力の低下:同業他社が実質賃金改善に取り組んでいれば、採用活動で劣勢になります。
- 労使トラブルの原因に:名目昇給があっても実質賃金が下がっていれば、「上がった実感がない」として不満が噴出します。
実質賃金を正しく理解するための指標と注意点
実質賃金指数
厚生労働省が公表する「毎月勤労統計調査」に基づく指数です。前年同月比で増減を把握でき、景気動向や労働政策に影響を与える指標の一つです。
デフレーター(物価補正係数)の種類と選定
- CPI(消費者物価指数):一般家庭の消費実態を反映した物価変動指標。
- GDPデフレーター:マクロ経済的な総合物価指数。企業経営にはCPIが一般的に用いられます。
地域差・業種差に注意
地方ではCPIや実質物価の変動が首都圏と異なるため、実質賃金の体感が異なることがあります。業種によっても価格転嫁の可否に差が出ます。
実質賃金の改善に向けた中小企業の対応策
1. 昇給計画に「物価」を考慮する
昇給率を決定する際は、前年のCPI上昇率を参照し、「実質的な賃上げ」になっているかを確認することが重要です。
2. 非金銭的報酬の充実
給与の絶対額が大きくできない場合でも、福利厚生・柔軟な働き方・休暇制度の整備など、従業員満足度を高める施策でカバーできます。
3. 生産性の向上による付加価値創出
人件費を無理なく上げるには、まずは「生産性」を改善することが必須です。IT導入・業務効率化・教育投資などによる付加価値向上を実現しましょう。
4. 労務費の「見える化」と説明責任
経営会議や従業員への説明時に、実質賃金の概念を含めて「会社の考え方」を丁寧に説明することで、信頼醸成にもつながります。
よくある質問(FAQ
Q1. 名目賃金を上げれば実質賃金も必ず上がるの?
A. いいえ。物価上昇率がそれ以上であれば、実質賃金はむしろ下がります。
Q2. 中小企業でも実質賃金を意識する必要はありますか?
A. はい。人材流出防止・求人競争力の確保に不可欠な視点です。
Q3. 賃金調査や物価の情報はどこで確認できますか?
A. 厚生労働省「毎月勤労統計」や、総務省「消費者物価指数(CPI)」が有用です。
まとめ:実質賃金を見誤ると、企業の未来も見誤る
実質賃金は、名目賃金とは異なる「従業員の本当の生活感覚」を映し出す重要な指標です。人件費を単なるコストと見るのではなく、戦略的な投資と捉え、物価の動向と連動した賃金設計がこれからの中小企業に求められています。
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[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]