採用の成否を左右する「試用期間」の正しい運用方法とは?
はじめに:なぜ試用期間が重要なのか?
中小企業において、新たな人材を採用することは、経営に大きな影響を与える重要な意思決定です。実際に働いてもらうことで、その人材が本当に会社にマッチしているかを見極める「試用期間」は、ミスマッチのリスクを最小限に抑えるための制度です。しかし、試用期間の法的性質や運用方法を誤ると、不当解雇と判断されるおそれもあります。
この記事では、試用期間の意味や法的性質、適切な運用ポイントをわかりやすく解説し、実務に役立つ知識を提供します。
試用期間とは何か?
試用期間の定義と目的
試用期間とは、労働者の採用後にその能力や勤務態度を観察し、本採用にふさわしいかどうかを見極めるための一定期間のことです。日本では、一般的に2~3ヶ月程度の期間が設定されることが多く、「仮採用」とも表現されます。
試用期間と見習期間の違い
しばしば混同されがちですが、試用期間は「採用の可否を判断する」ための期間であり、見習期間は「採用後に業務を習得する」ための期間です。制度上の目的が異なるため、契約書や就業規則でも明確に区別する必要があります。
試用期間の法的性質
解約権留保付き労働契約とは
現行の判例や学説の主流では、試用期間中であっても労働契約はすでに成立しているものとされます。これを「解約権留保付き労働契約」といい、使用者には広い裁量のもとで契約を解約する権利が認められます。
ただし、その行使には制限があります。以下のような場合は、不当な扱いとされる可能性があります。
- 思想・信条、性別、年齢などを理由としたもの
- 組合活動への関与
- 客観的な理由がなく、合理性を欠く場合
試用期間中の解雇は「解雇」として扱われる
判例上、試用期間中の解雇も「解雇」として扱われます。そのため、解雇予告(30日前の通知または解雇予告手当の支給)が必要です。また、客観的合理性と社会的相当性が認められなければ、無効とされる可能性があります。
試用期間の設定に必要な実務対応
就業規則や雇用契約書での明記
就業規則や雇用契約書には、試用期間の存在・期間・本採用の可否の判断基準などを明記しましょう。例として以下のような記載が考えられます。
第◯条(試用期間)
新規採用者には、採用日より◯ヶ月間の試用期間を設ける。試用期間中の勤務状況、勤務態度、能力等を総合的に判断し、本採用を行う。試用期間中であっても、解約権の行使により雇用契約を終了することがある。
合理的な判断基準の設定
本採用可否の判断にあたっては、事前に評価基準を設定しておくことが重要です。以下のような項目が例として挙げられます。
- 業務遂行能力(指示の理解・業務スピードなど)
- 出勤状況・遅刻欠勤の有無
- 協調性・社内ルールへの適応力
- コミュニケーション力
これらの基準を明文化し、評価に一貫性を持たせることで、トラブルを防止できます。
記録の重要性
試用期間中の評価記録や面談メモは、後のトラブル回避に極めて有効です。特に本採用を見送る場合は、解約理由の合理性を説明できる証拠となります。
試用期間の延長と注意点
延長の可否と注意点
やむを得ない理由(業務が偏って能力評価ができなかった等)がある場合には、試用期間の延長は可能です。ただし、以下の点に注意してください。
- 契約書や就業規則で延長の可能性を明示しておくこと
- 延長期間とその理由を文書で本人に通知すること
- 延長期間中の評価対象や目標を明確にすること
一方的に延長したり、延長の根拠が不明確だったりすると、無効となる可能性があります。
試用期間を活用した人材定着のヒント
フォローアップ体制の整備
試用期間中は、人事担当や上司が定期的にフォローアップし、不安や疑問を早期に解消することが重要です。メンタリング制度や定期面談を設けることで、定着率が向上します。
評価は双方向に
企業側が評価するだけでなく、労働者側からも職場環境や業務内容のフィードバックを得ることで、よりよい関係構築が可能になります。
よくある誤解とそのリスク
誤解 | 実際の法的取扱い |
---|---|
試用期間ならいつでも解雇できる | 不当解雇と判断される可能性が高い |
試用期間は無給でよい | 労働契約が成立しているため、賃金支払義務あり |
試用期間は延長し放題 | 明確な理由と本人同意が必要 |
まとめ:試用期間は「採用の最後の関門」
試用期間は、単なる“お試し”ではなく、すでに労働契約が成立している正式な雇用関係の中で機能する重要な制度です。適切に運用することで、ミスマッチを防ぎ、従業員の定着を促進することができます。
中小企業経営者・個人事業主の皆さまは、制度の趣旨を理解し、透明性と公平性のある評価体制を構築することが求められます。
試用期間の設計や労働契約の見直しに不安がある方は、社会保険労務士など専門家へぜひご相談ください。御社の採用制度がさらに強固なものになるよう、サポートいたします。
[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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