職能給とは?中小企業経営に活かすための制度理解と導入ポイント
はじめに
少子高齢化や労働力不足、同一労働同一賃金などの影響により、人事制度の見直しを迫られる中小企業は増えています。中でも注目されているのが「職能給」です。職能給とは、従業員の職務遂行能力に基づいて賃金を決定する制度であり、年功給や職務給とは異なる柔軟な運用が可能です。本記事では、職能給の基本的な考え方から導入メリット、注意点、実務への落とし込み方までを解説します。
職能給とは何か
職能給の定義
職能給とは、従業員が保有する「職務遂行能力(=職能)」を評価基準とし、その等級に応じて賃金を支払う制度です。具体的には、職能等級ごとに賃率が設定され、個々の従業員の能力を評価して支給額を決定します。
職能給の背景と発展
日本では戦後の高度成長期に、年功賃金を見直す動きの中で「能力主義管理」の一環として職能給制度が普及しました。特に1969年に日経連が提唱した職能資格制度は、企業内人事管理の核として、大企業を中心に導入されてきました。
職能給制度の仕組み
職能資格制度との関係
職能給制度は、「職能資格制度」と密接に連携しています。これは、職務遂行能力を等級ごとに区分し、昇格・昇進・配置・育成などの人事制度全体と連動させる仕組みです。
能力評価の手法
職能給における能力評価には、次のような方法が用いられます:
- 職能分類制
- 能力序列(資格)
- 勤続年数・経験年数
- 技能資格・実技テスト
- 資格試験
これらを組み合わせて、従業員一人ひとりの能力を評価します。
職能給の導入メリット
柔軟な人事管理が可能
職能給は、能力の伸長に応じた昇給・昇進を実現できるため、柔軟な人事運用が可能です。特に中小企業では、少人数組織の中で多様な業務を担う人材に対応しやすい制度です。
年功賃金の弊害の是正
年功序列の制度では、勤続年数に比例して賃金が上がるため、中高年層に相対的に高い賃金を支払う必要があります。職能給は、職務遂行能力に応じて賃金を決めるため、能力と報酬のバランスがとりやすく、コストコントロールに寄与します。
配置転換・多能工化に対応
職能給は、職務内容の変化にも柔軟に対応できる制度です。職務給と異なり、特定職務への固定化を防ぎ、配置転換や多能工化、小集団活動との相性も良好です。
職能給導入の注意点
評価基準の曖昧さ
職能給では、職務遂行能力を評価するための明確な基準作りが必要です。曖昧な評価では、従業員の納得感やモチベーションに悪影響を与えかねません。
評価者の育成
適切な評価を行うには、管理職や評価者の育成が欠かせません。制度設計と並行して、評価スキルの研修を導入する必要があります。
昇進の形骸化リスク
制度運用が形式的になると、「昇進しても業務内容が変わらない」などの状態に陥りやすくなります。定期的に制度を見直し、運用の実態と照らし合わせることが重要です。
中小企業が職能給を活用するには
自社に合った等級制度の構築
職能給制度は、大企業のまねをするだけではうまくいきません。業種や企業規模、組織構造に応じた独自の等級制度を構築することが必要です。
小規模導入からのスタート
全社一斉導入ではなく、一部部署や職種から試行導入し、フィードバックを得ながら改善する方法が有効です。現場の声を制度に反映させることで、制度定着がスムーズになります。
他制度との整合性を重視
職能給は単独で機能する制度ではありません。評価制度、教育制度、昇格制度などとの一体運用が求められます。制度全体の整合性を重視しながら導入しましょう。
まとめ
職能給は、従業員の能力に着目した柔軟な賃金制度であり、中小企業にとっても人材の活用とコスト管理の両立を図る有効な手段です。しかし導入には、評価基準の明確化、評価者の育成、制度の整合性などに注意が必要です。まずは小規模から試行的に導入し、自社に最適な制度設計を進めてみましょう。
「自社に合った職能給制度を導入したい」「制度設計や評価項目の見直しを相談したい」とお考えの方は、ぜひ当社までお気軽にご相談ください。貴社の人事制度改革を全力でサポートいたします。
[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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