中小企業経営者・個人事業主のための雇用保険制度
はじめに:雇用保険は経営者にとって“義務”であり“武器”でもある
中小企業の経営者や個人事業主にとって、「雇用保険」という言葉は聞き慣れていても、その詳細までは把握していないケースが少なくありません。しかし、労働者を一人でも雇用した瞬間から、雇用保険の適用事業者としての義務が発生します。しかも、正しく活用すれば、雇用保険は事業運営をサポートする“経営ツール”にもなり得る制度です。
この記事では、雇用保険の基本から加入要件、手続きの流れ、経営者が知っておくべき助成制度までを網羅的に解説します。
雇用保険とは?制度の基本を押さえよう
雇用保険の目的と役割
雇用保険は「失業保険」とも呼ばれますが、その役割は失業時の給付だけにとどまりません。主な目的は以下の通りです:
- 労働者の生活と雇用の安定
- 職業能力の開発・向上
- 失業の予防と再就職の促進
- 育児・介護と仕事の両立支援
保険者と管轄機関
- 保険者:国(厚生労働省)
- 事務取扱機関:ハローワーク(公共職業安定所)
雇用保険の適用事業とは?
原則:労働者を一人でも雇用すれば強制適用
雇用保険は、労働者を1人でも雇っている場合、基本的に事業主が加入手続きを行う義務があります。以下の条件を満たすと、自動的に「適用事業」となります。
- 週所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込み
例外:農林水産業の一部は任意適用
- 農林水産事業で、かつ労働者が5人未満の個人経営の場合は「当分の間、任意適用」とされています。
事業主の加入義務と責任
雇用保険に加入しないとどうなる?
未加入のまま従業員を働かせていると、以下のようなリスクがあります:
- 行政指導・是正勧告・罰則
- 従業員からの信頼喪失
- 助成金の受給資格喪失
掛け金の負担割合
雇用保険料は、事業主と労働者で以下のように負担します(2025年度目安):
区分 | 労働者負担 | 事業主負担 | 合計保険料率 |
---|---|---|---|
一般の事業 | 0.55% | 0.9% | 1.45% |
※業種や年度により変動あり
雇用保険の加入手続き
ステップ1:適用事業所設置届の提出
労働者を雇った日から10日以内に、ハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」を提出します。
ステップ2:被保険者資格取得届の提出
対象となる従業員ごとに「雇用保険被保険者資格取得届」を作成・提出します。
ステップ3:毎月の保険料納付
給与計算時に保険料を天引きし、納期限までに納付します。
雇用保険の主な給付制度
基本手当(いわゆる失業給付)
- 対象:離職し、求職活動をしている被保険者
- 給付日数:90〜330日(年齢・雇用保険加入期間により異なる)
育児休業給付
- 対象:育児休業を取得する労働者
介護休業給付
- 対象:家族の介護のために休業する被保険者
教育訓練給付
- 対象:一定の条件を満たす被保険者や離職者
経営者が活用できる雇用保険関連助成金
雇用保険に加入していると、厚生労働省の様々な助成金を受けられるチャンスがあります。
キャリアアップ助成金
- 非正規雇用者を正社員化すると支給される
- 最大80万円(1人あたり)
両立支援等助成金
- 育休・介護休業制度を導入した事業主に支給
人材開発支援助成金
- 社内研修や外部研修を実施した場合に助成される
雇用保険のよくある誤解と注意点
「アルバイトやパートは対象外」は誤り
週20時間以上、31日以上働く見込みがあれば、雇用形態に関係なく加入義務があります。
「事業主は入れない」は基本的に正しいが例外あり
原則として、法人の代表者や個人事業主自身は加入できません。ただし、法人の役員であっても労働者性が認められれば加入対象になる場合もあります。
まとめ:雇用保険は経営と労務管理の「要」
雇用保険は、ただの“義務”ではなく、うまく活用することで従業員満足の向上・離職率の低下・助成金の受給といった多くのメリットを企業にもたらします。制度を理解し、正しく加入・運用することが、信頼される事業運営への第一歩です。
行動を促す:今すぐ手続きを確認しよう!
「もしかして、まだ手続きしていないかも…」という方は、今すぐ最寄りのハローワークへ確認を!制度を理解し、適切に運用することで、あなたの事業はより強固なものとなります。雇用保険の加入は、“義務”であると同時に“未来への投資”です。
[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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