厚生年金保険制度(1)
はじめに:なぜ今「厚生年金保険」が重要なのか?
「厚生年金保険」は、従業員を雇用する中小企業や個人事業主にとって避けては通れない重要な社会保険制度です。しかし、その仕組みや義務、給付内容について正しく理解している方は意外と少ないのが現実です。
近年では短時間労働者への適用拡大や、義務化対象の拡大など、制度は目まぐるしく変化しており、正しい知識がなければ思わぬリスクや損失を招くこともあります。
この記事では、中小企業の経営者や個人事業主が知っておくべき「厚生年金保険」の基礎知識から最新動向、実務対応までを網羅的にわかりやすく解説します。
厚生年金保険とは?
公的年金制度の「二階建て構造」
日本の年金制度は「二階建て構造」と言われます。全ての国民が加入する「国民年金(基礎年金)」が一階部分であり、これに上乗せされる形で支給されるのが厚生年金保険です。
厚生年金保険は、会社員や公務員など「雇用されている人」が対象で、その支給額は収入(報酬)に比例して決まります。
厚生年金保険の沿革と制度の変遷
厚生年金保険の前身は1942年施行の「労働者年金保険法」で、1954年に現在の形へと大きく改正されました。その後も制度の見直しが繰り返され、特に少子高齢化の進展に伴い、持続可能な制度設計を目指して改革が進められてきました。
中小企業が理解すべき「厚生年金保険の適用要件」
強制適用と任意適用の違い
厚生年金保険は、原則として法人事業所や従業員が5人以上の個人事業所は「強制適用」となります。
ただし、以下のようなケースは例外です。
- 農業・漁業・理美容業など一部業種の個人事業所は対象外
- 5人未満の事業所は「任意適用」(従業員の過半数の同意が必要)
2022年以降の適用拡大の動き
最近では短時間労働者への適用が急速に拡大しています。以下のスケジュールで適用が進んでいます。
適用開始時期 | 対象企業規模 |
---|---|
2022年10月 | 101人以上 |
2024年10月 | 51人以上 |
対象となるのは、以下の条件を満たすパート・アルバイト従業員です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月収88,000円以上
- 継続勤務見込み2か月以上
- 学生でないこと
経営者が知っておくべき費用負担と保険料率
保険料の仕組み
厚生年金保険の保険料は、被保険者の報酬月額と賞与額に保険料率を掛けて算出されます。
2025年現在の保険料率は**18.3%**で、事業主と従業員が折半(各9.15%)で負担します。
育休・産休中の免除制度
以下のような期間は、保険料が全額免除されます。
- 出産予定日42日前から産後56日まで
- 子が3歳になるまでの育児休業期間中
厚生年金保険で受けられる給付内容
老齢厚生年金
65歳から支給され、報酬に比例した金額が支給されます。60歳からの繰り上げや、75歳までの繰下げも可能です。
障害厚生年金・障害手当金
業務外の事故や病気でも、障害の程度に応じて給付があります。厚生年金では3級まで支給対象があり、障害手当金(1回限りの一時金)も用意されています。
遺族厚生年金
被保険者の死亡時に、遺族(配偶者・子など)に対して給付されます。中高齢寡婦加算などもあり、手厚い保障が特徴です。
個人事業主でも厚生年金に加入できるのか?
法人化で加入が可能
個人事業主が「厚生年金保険」に加入するには、基本的に**法人化(会社設立)**する必要があります。法人の代表取締役は、たとえ一人会社でも厚生年金の対象です。
メリットと注意点
メリット
- 老後の年金が増える
- 社会的信用の向上
- 将来の障害や死亡への備えが充実
注意点
- 保険料の負担が大きくなる
- 記帳や税務処理の手間が増える
事業主がすべき実務対応と手続き
新たに加入すべきケース
- 従業員を5人以上雇用することになった
- 法人を設立した
- パート・アルバイトが要件を満たすようになった
加入手続きの流れ
- 年金事務所へ届出(適用事業所の申請)
- 被保険者資格取得届を提出
- 報酬月額の届出(報酬月額算定基礎届)
- 保険料の納付開始(原則毎月支払い)
よくある疑問Q&A
Q1. 社長一人だけでも加入義務はある?
A. はい。法人化している場合、代表取締役1名のみの会社であっても厚生年金保険の加入義務があります。
Q2. パートやアルバイトも強制加入?
A. 所定労働時間や収入が一定の基準を超えると、企業規模に応じて強制加入となります。
まとめ:厚生年金保険は企業経営の基盤を守る制度
厚生年金保険は「費用負担が重い」と敬遠されがちですが、従業員の将来を支える大切な制度であると同時に、経営者自身の老後・万が一の備えにもつながります。
制度改正や適用拡大に対応し、早めの準備と理解が将来のリスク回避につながります。
厚生年金保険について「うちは加入義務があるの?」「手続きはどう進めればいいの?」といった疑問がある方は、社会保険の専門家に早めに相談しましょう。
制度を正しく活用することで、会社経営に安心と信頼をもたらします。
[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
人事評価・賃金改定のことなら「社会保険労務士法人あい」へ