厚生年金保険制度(2)
厚生年金保険の加入要件と適用事業所の範囲
厚生年金保険は、原則として被用者(雇われて働く人)を対象とする制度であり、その適用には「事業所単位」と「労働者の属性」の両方が関係します。ここでは、どのような事業所・従業員が対象となるのかを詳しく解説します。
強制適用事業所とは?
厚生年金保険の「強制適用事業所」とは、法律により加入義務がある事業所を指します。以下のようなケースが該当します。
- 法人の事業所(株式会社・合同会社など):常時従業員がいるかどうかを問わず、すべての法人が該当
- 個人事業所で常時5人以上の従業員を使用するもの:ただし、農業・林業・漁業・理美容業などの一部業種は除外
任意適用事業所の仕組み
強制適用とならない個人事業所でも、従業員の過半数の同意が得られれば「任意適用事業所」として厚生年金に加入することができます。
任意適用のメリット
- 従業員の福利厚生の向上
- 優秀な人材の確保・定着につながる
- 老後の生活不安を軽減できる
デメリット・注意点
- 事業主にも保険料負担が生じる
- 一度任意適用を開始すると、簡単には脱退できない
個人事業主やフリーランスは加入できる?
基本的に、自営業者やフリーランスなどの個人事業主は厚生年金保険には加入できません。しかし、**法人化(例:合同会社設立)**して自らを役員として登記すれば、厚生年金への加入が可能です。
短時間労働者への適用拡大と企業への影響
近年の法改正により、パートやアルバイトなどの「短時間労働者」に対する厚生年金の適用が急速に拡大しています。これは、年金制度の公平性とセーフティネット強化を図るための措置です。
対象となる短時間労働者の条件
以下のすべてに該当する場合、短時間労働者でも厚生年金の適用対象になります。
条件 | 内容 |
---|---|
所定労働時間 | 週20時間以上 |
月額賃金 | 88,000円以上 |
雇用期間 | 2か月以上の見込み |
学生でない | 在学中でないこと |
企業規模 | 以下に記載のとおり |
適用拡大のスケジュール
開始時期 | 対象企業規模 |
---|---|
2016年10月 | 従業員501人以上の企業 |
2022年10月 | 従業員101人以上の企業 |
2024年10月 | 従業員51人以上の企業 |
※企業規模のカウント方法には注意が必要で、「厚生年金保険の適用者数」が基準となります。
企業が取るべき対応
- 対象者の洗い出し
- 労使協定の見直し
- 給与計算・社会保険料の再設定
- 就業規則への反映
保険料の仕組みと企業の費用負担
厚生年金保険料の仕組みを正しく理解していないと、想定外のコストが発生したり、未納リスクが生じます。ここでは、企業と従業員の負担の仕組みを整理しておきましょう。
保険料率と負担割合
2025年現在、厚生年金保険の保険料率は18.3%で固定されており、事業主と被保険者で折半するのが原則です。
- 事業主負担:9.15%
- 従業員負担:9.15%
標準報酬月額と標準賞与額
保険料は「標準報酬月額」と「標準賞与額」に基づいて算出されます。
標準報酬月額
- 毎月の報酬(基本給+各種手当)を基準に等級区分(1級8.8万円~32級65万円)
- 年1回「算定基礎届」で更新
標準賞与額
- 賞与に対する保険料も課され、1回150万円が上限
育児・産休中の保険料免除
以下の期間中は、事業主・被保険者の両方の保険料が免除されます。
- 出産予定日の42日前から産後56日まで
- 子が3歳になるまでの育児休業期間
免除期間中も「保険料を払ったもの」として将来の年金額に反映される仕組みになっています。
[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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