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2025-04-28

労働基準法における「使用者」とは?

はじめに:あなたも「使用者」かもしれません

中小企業の経営者や個人事業主の皆さん、「使用者」という言葉をご存じでしょうか?
一見すると「会社の社長」や「法人の代表者」だけが該当するように思われがちですが、実はもっと広い意味を持ち、労働基準法上の重要なキーワードとなっています。

「使用者」の定義を正しく理解していないと、思わぬ法的責任を負ったり、労働トラブルに発展したりするリスクがあります。

この記事では、「使用者」の法的な意味から実務上の判断基準、そして中小企業経営者・個人事業主が取るべき対策までをわかりやすく解説します。


労働基準法における「使用者」とは?

労働基準法第10条の定義

労働基準法第10条によると、「使用者」とは以下のように定義されています。

「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」

この条文から分かる通り、「使用者」は単に会社の代表者や経営者に限らず、労働者の採用や解雇、労務管理に関わる権限を持った人物すべてが該当します。

「使用者」の範囲はどこまで?

例えば、以下のような人物も「使用者」としてみなされる可能性があります。

  • 取締役や執行役員
  • 人事部長や総務部長
  • 工場長や現場責任者
  • 店舗マネージャー

重要なのは「肩書き」ではなく、「実態」です。実際に労働者の勤務条件や人事に関する意思決定を行っていれば、「使用者」として法的責任を問われることになります。


「使用者」であることの法的責任

労働基準法違反の責任主体になる

「使用者」は労働基準法違反があった際、法的な責任を負います。たとえば以下のようなケースです。

  • 違法な残業を強制した
  • 解雇予告を行わなかった
  • 有給休暇を適切に付与しなかった

これらの違反があった場合、「使用者」に対して是正勧告や罰則が科される可能性があります。

使用者責任と損害賠償

さらに、民法上の「使用者責任」(民法715条)により、従業員の不法行為についても責任を問われる可能性があります。これは、企業内でのトラブルや事故が発生した際に、経営者や上司などが「使用者」として損害賠償請求を受けるリスクを意味します。


「使用者」と「事業主」の違い

法人格の有無による違い

  • 事業主は、事業の経営主体を指します。個人事業であれば本人、法人であれば法人そのものが「事業主」です。
  • 一方、「使用者」は人事労務に関して責任を負う実質的な管理者も含みます。

つまり、事業主でなくとも使用者になる可能性があるということです。

経営者=使用者ではないケースもある

法人における代表取締役が実際には労務管理を行っておらず、すべてを人事部長に任せている場合、その人事部長が「使用者」となることもあります。このように、「名義」ではなく「実態」によって判断されるのがポイントです。


実務における「使用者」の判断基準

判断のポイント

以下のような要素が、「使用者」とみなされるか否かの判断基準になります。

  • 労働条件の決定・変更を行う権限があるか
  • 採用・解雇に関与しているか
  • 就業規則や労使協定の締結に関わっているか
  • 労働者からの相談・苦情に対応する立場にあるか

就業規則や社内規定の見直しを

「使用者」の責任範囲が曖昧な場合、トラブル時の責任の所在も不明確になります。就業規則や組織図の中で、誰がどの範囲で「使用者」としての権限を持っているのかを明文化しておくことが重要です。


中小企業・個人事業主が気をつけるべきポイント

使用者としての自覚を持つ

経営者自身が「使用者」である場合、その立場に自覚を持ち、法令遵守を徹底する必要があります。

また、労務管理を任せている社員に対しても、適切な教育やマニュアル整備が求められます。

トラブル回避のための体制づくり

  • 労働時間管理の徹底(タイムカード・勤怠アプリ等)
  • 適切な労働契約書の締結
  • 解雇・懲戒のルールを社内に明示する
  • ハラスメント研修の実施

このような体制を整えておくことで、トラブルを未然に防ぐとともに、「使用者」としての責任を果たすことができます。


よくある誤解とそのリスク

「自分は経営者だから大丈夫」は通用しない

「従業員の労務管理は人事部に任せているから自分は関係ない」と思っている経営者の方は要注意。実質的に「使用者」とみなされれば、責任を免れることはできません。

「パート社員に対応させているから安心」ではない

店舗マネージャーやパートリーダーなどが労務管理を行っている場合、その人たちが「使用者」としての責任を負うこともありえます。そのため、彼らにも最低限の法的知識を教えておく必要があります。


社会保険労務士などの専門家との連携が重要

中小企業や個人事業主にとって、すべての労務リスクを一人で抱えるのは非現実的です。
「誰が使用者になるのか」「どのような責任を負うのか」といった判断に迷った場合は、社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。


まとめ:使用者の理解は経営の第一歩

「使用者」という概念は、労働法の基本中の基本でありながら、非常に奥が深いものです。
中小企業の経営者や個人事業主が「使用者」の定義や責任を正しく理解し、法令に則った労務管理を行うことは、企業の持続的な発展に不可欠です。

[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]

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