「賞与引当金」とは?中小企業の健全な財務管理に欠かせない基礎知識と実務対応
はじめに:なぜ「賞与引当金」が中小企業経営に重要なのか
賞与は従業員のモチベーション維持に欠かせない一方で、経営者にとっては「突発的支出」となりがちです。特に年2回支給している企業では、決算期に賞与分の原資を正確に把握しておかないと、資金繰りに大きな影響が出ることもあります。
そこで登場するのが「賞与引当金」です。これは、将来支払う予定の賞与に備えて、事前に費用計上しておく会計上の仕組みです。
本記事では、「賞与引当金とは何か」から、「具体的な計上方法」「税務上の注意点」まで、中小企業経営者に必要な情報を徹底解説します。
賞与引当金とは?
賞与引当金の定義
賞与引当金とは、決算日時点で次回支給予定の賞与に対応する労働サービスの提供分に対して、見積もって設定する引当金です。
例)3月決算で賞与を6月と12月に支給している企業の場合、1月〜3月分の労働に対する賞与額を見積もり、決算時に「賞与引当金」として流動負債に計上します。
会計上の目的
- 費用と収益の対応を適正にする(期間対応)
- 決算書をより正確にする(発生主義)
- 突発的な資金流出に備え、経営判断を安定化させる
賞与引当金の仕訳と計上方法
計上のタイミング
決算日時点で、次回賞与支給日に向けた引当を行います。
仕訳の例
(借方)賞与引当金繰入額 XXX円
(貸方)賞与引当金 XXX円
- 「賞与引当金繰入額」は損益計算書の費用項目
- 「賞与引当金」は貸借対照表の流動負債
支給時の仕訳
(借方)賞与引当金 XXX円
(借方)給与手当 YYY円
(貸方)現金預金 ZZZ円
※ZZZ円 = XXX円 + YYY円(実際支給額のうち引当済分と未引当分)
賞与引当金の計算方法
基本計算式
1ヶ月あたりの支給額 × 対象月数 × 対象従業員数
具体例
- 月給:30万円
- 賞与支給月:6月、12月
- 計上月:3月末(1月〜3月分を見積もる)
30万円 × 3ヶ月 ÷ 12ヶ月(半年相当) = 7.5万円(1人分)
従業員10名なら、75万円が賞与引当金になります。
税務上の取り扱いと注意点
法人税法上の要件
法人税上、賞与引当金は原則「損金不算入」です。ただし、一定の条件を満たす場合は「未払賞与」として損金算入が可能です。
損金算入の条件(いわゆる「確定した賞与」)
- 賞与の支給対象者、金額、支給日が決算前に明確であること
- 従業員に通知していること
- 決算日から1ヶ月以内に実際に支給されること
誤解しやすいポイント
- 引当金と未払賞与は会計処理上は似て非なるもの
- 引当金は「見積もり」、未払賞与は「確定」
中小企業での運用上のポイント
なぜ導入すべきか?
- キャッシュフローの見通しが立ちやすくなる
- 決算対策がしやすくなる
- 税務リスクを軽減できる
よくある課題とその解決法
課題 | 解決策 |
---|---|
見積額が毎期変動する | 定期的な人件費見直しと過去実績の活用 |
計上漏れ・過大計上 | 専門家(税理士・会計士)と連携する |
よくある質問(FAQ)
Q1. 賞与が業績連動型の場合、引当金はどう計上する?
A. 業績評価の基準が明確ならば、合理的な見積もりが可能。業績に大幅な変動がある場合は注意。
Q2. パートやアルバイトにも引当金を設定すべきか?
A. 支給実績があり、今後も支給予定があるなら対象に含めるべき。
まとめ:賞与引当金の理解と実践が健全経営の第一歩
賞与引当金は、単なる会計処理にとどまらず、経営の安定性を高める重要な仕組みです。中小企業においても、賞与の支払いタイミングや金額に応じて適切に引当を行うことで、資金繰りの悪化や想定外の支出を未然に防ぐことが可能です。
「どこまで見積もればいいのか?」「税務上の取り扱いは?」といった悩みもあるでしょうが、制度を正しく理解し、実務に落とし込むことで、経営リスクを大幅に低減できます。
最後に|専門家への相談で確実な運用を
賞与引当金は、経理・税務の知識を要する分野です。不明点がある場合は、税理士や社労士などの専門家に相談することをおすすめします。確実な対応で、会社経営の安心と従業員の信頼を両立しましょう。
[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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