退職時等の証明とは?中小企業経営者が知っておくべき義務と実務対応を徹底解説
はじめに
従業員が退職する際、次の就職活動や失業給付の申請のために、退職証明書や解雇理由証明書を請求してくることがあります。これに適切に対応しなければ、労働トラブルや企業の信用問題に発展するリスクもあります。本記事では、労働基準法第22条に定められた「退職時等の証明」に関する法的義務と実務上の注意点について、中小企業経営者や個人事業主の視点でわかりやすく解説します。
退職時等の証明とは何か?
労働基準法第22条の概要
退職時等の証明とは、労働者が退職する際に、希望すれば使用者が一定の事項について証明書を交付しなければならないという法的義務です。労働基準法第22条に以下のように規定されています。
証明が義務付けられる事項とは?
労働者から証明の請求があった場合、使用者は以下の事項について遅滞なく交付しなければなりません。
1. 使用期間
労働者が企業でどの期間働いていたかを明記します。たとえば「2020年4月1日~2025年7月31日」など。
2. 業務の種類
どのような業務に従事していたかを簡潔に記載します。例:「経理業務」「配送業務」「システム開発業務」など。
3. その事業における地位
役職や等級、立場などを明確にします。「主任」「係長」「正社員」など。
4. 賃金
直近の給与額や賞与の有無など、賃金に関する内容を記載します。年収換算も適宜明記します。
5. 退職の事由(解雇の場合はその理由を含む)
自己都合退職、契約満了、解雇などの退職理由を記載し、解雇である場合はその具体的理由を記載する義務があります。
解雇理由証明書の交付義務とは?
労働者が「解雇を予告された日から退職日まで」の間に、その理由について証明を求めた場合、使用者は遅滞なく交付しなければなりません。これは、平成10年の法改正により追加された規定です。
書いてはいけないこと・注意すべき点
労働者が請求していない事項の記載は禁止
証明書には、労働者が請求していない項目を記載してはいけません。たとえば、業務内容のみの証明を求められた場合に、退職理由などを勝手に書くことは禁止されています。
不当な差別を助長する記載の禁止
労働者の国籍、信条、社会的身分、または労働組合活動に関する記載や、これらを第三者に秘密裏に伝えるような行為(たとえば暗号記号などの使用)は、明確に禁止されています。
証明の様式と発行の実務対応
書式は法定されていないが慎重な対応を
証明書の形式は法律で定められていませんが、企業としては一定のフォーマットを用意し、記載内容に齟齬が生じないようにすることが望ましいです。
発行までの期限は「遅滞なく」
「遅滞なく」とは、請求を受けたらできるだけ早く対応することを意味し、目安としては数日以内の対応が適切です。発行が遅れると、不誠実な対応としてトラブルになる恐れがあります。
離職票との違い
離職票は「退職時の証明」にはならない
離職票(ハローワーク提出用書類)は、退職時の証明とは目的も役割も異なります。したがって、証明書の代替にはなりません。退職証明書を求められた場合には、必ず別途発行する必要があります。
退職後2年以内は何度でも請求可能
証明の請求は退職から2年間有効です。この間であれば、労働者は何度でも証明を求めることが可能であり、その都度使用者は誠実に対応しなければなりません。
実務上のトラブル事例と対応策
【事例1】ネガティブな退職理由を勝手に記載
問題点:労働者が業務内容のみを求めていたにもかかわらず、「勤務態度不良のため解雇」と記載してトラブルに。
対応策:請求内容を文書で確認し、記載する内容は請求範囲内に厳密に限定する。
【事例2】証明の発行を拒否し、ハローワークに通報される
問題点:退職証明書の交付を求められたが対応せず、公共職業安定所に苦情が入り、行政指導を受ける。
対応策:退職時に必要な手続きを確認し、社内体制として証明書発行の担当者とフローを整備する。
よくある質問(FAQ)
Q1. 退職証明書に記載する内容を企業側で限定できますか?
A:できません。あくまでも労働者が希望する内容のみを記載し、それ以外の記載は禁止です。
Q2. 労働者が退職してから1年以上経っていても発行しなければならない?
A:はい。退職から2年以内であれば請求可能です。
Q3. 発行に費用を請求してもいい?
A:いいえ。法令上、証明の発行は使用者の義務であり、費用請求は不適切とされます。
まとめ:退職時等の証明は「誠実・迅速・正確」に対応を
中小企業経営者にとって、退職時の手続きは煩雑に感じるかもしれませんが、「退職時等の証明」は労働基準法で定められた法的義務であり、対応を誤るとトラブルの元となります。
トラブルを防ぎ、企業の信頼を守るためにも、以下の3点を徹底しましょう。
- 労働者の請求があったら遅滞なく発行する
- 記載内容は請求事項に限定する
- 不適切な記載や差別的行為は絶対に避ける
退職証明書のテンプレート整備や実務対応に不安がある方は、社会保険労務士などの専門家へ相談することをおすすめします。労務トラブルを未然に防ぎ、スムーズな労働契約の終了を実現しましょう。
[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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