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2025-09-18

二重派遣とは?―知らないでは済まされない“再派遣”のリスクと実務対応

はじめに

「取引先から“人手が足りない別の会社にも手伝いに行ってほしい”と言われた」――そんな現場判断で派遣社員を別会社へ回していませんか。これは二重派遣(再派遣)と呼ばれる違法行為に該当し得ます。違反すると派遣先側も“供給を受けた会社”側も罰則の対象。自社の信用や事業の継続に直結する重大リスクです。本稿では、中小企業・個人事業主が押さえるべき法的根拠、よくあるグレー事例、予防・是正の実務策まで、一次情報に基づいてわかりやすく解説します。

二重派遣の定義と基本構造

  • 定義:派遣元Aから労働者を受け入れている派遣先Bが、その労働者をさらに別会社Cに労働力として提供すること。Bは“新たな供給元”、Cは“供給先”になります。この関係は「労働者供給」に当たり、原則として禁止です。
  • なぜ違法になるか:職業安定法第44条は、労働者供給事業を原則禁止し(例外は許可を受けた労働組合等の無料供給)、供給を受けた労働者を自らの指揮命令下で働かせることも禁じています。

法的根拠(何がどの条文に触れるのか)

職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)

何人も、(中略)労働者供給事業を行い、又はその事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない

罰則(第64条)

  • 第44条に違反した場合は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金行為者(供給した側)だけでなく、供給を受けた側も処罰対象です(第64条10号)。

※古い解説では「20万円以下の罰金」との記載が残ることがありますが、現在は100万円以下に引き上げられています。厚労省資料でも第64条の上限は100万円と整理されています。

労働基準法第6条(中間搾取の排除)

  • 「法律に基づく場合のほか、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」――二重派遣は労働条件の劣化や賃金のピンハネを招く構造と親和性が高く、職安法と併せて問題視されます。

何が問題なのか(企業側のリスク/労働者側の不利益)

  • 使用者責任のあいまい化:安全衛生、労災対応、ハラスメント、労働時間管理の責任がどこにあるか不明確になり、重大事故時の説明が立ちません。
  • 罰則・行政処分・信用毀損:刑事罰に加え、取引停止・入札参加制限・与信悪化などの二次被害が現実的。
  • 労働者の被害:賃金遅延・引下げ、社会保険・安全配慮の空洞化など、脆弱な就労環境が生まれやすい。

よくある“グレー”と偽装請負の落とし穴

偽装請負とは

書面上は「請負(準委任・委託)」だが、実態は派遣(発注者が直接、現場指示)という脱法スキーム。違法です。

派遣と請負の線引き(37号告示)

指揮命令の有無業務遂行管理の主体成果物責任再委託の可否資機材・人選・勤怠管理の主体など、実態で判定します(契約形式では判定しません)。

典型的なアウト例

  • 派遣先の現場管理者が、別会社の現場で派遣労働者に直接指示
  • SES/準委任の名目だが、客先管理者が日々の業務を直接割当・評価
  • 請負のはずが、勤怠・休暇承認を発注者が行う/人選を発注者が決める

「二重派遣」と混同しやすい類似スキーム

在籍出向(適法な人事異動)

出向元・出向先双方と雇用関係を持ち、出向契約で指揮命令・賃金負担等を整理した人事異動。派遣とは別物です。

真正請負(成果責任+自社管理)

請負事業者が自ら業務を管理し、成果に責任を負う体制。発注者は直接指揮命令をしないのが原則。基準(37号告示)に適合する設計・運用が必要です。

自社を守るための実務チェックリスト

契約前(設計段階)

  • 人の手配が主目的になっていないか(成果・範囲・責任が明確か)。
  • 再委託の可否・範囲を明記し、再委託時の指揮命令系統責任分担を整理。
  • 就業場所変更客先常駐が生じる場合の審査フローを契約に組み込む。

運用中(現場コントロール)

  • 派遣なら派遣先指示、請負なら請負側指示に“一本化”。
  • 発注者による日々の直接指示・勤怠承認・人選指示禁止(請負)。
  • 現場責任者の設置、作業手順書・品質基準・受入/検収手順の整備。

定期監査(証跡管理)

  • 指揮命令系統、勤怠承認、教育・安全衛生、評価の主体をログで可視化。
  • 現場ヒアリング契約・体制図の突合を四半期ごとに実施。
  • 逸脱があれば是正計画再教育を即時実施。

もし二重派遣の疑いが浮上したら(初動~是正)

  1. 即時停止:当該アサインを一旦止め、当事者間の指揮命令の実態を棚卸し。
  2. 再契約の整理:Cで継続が必要なら、派遣元AとCが直接、適法な派遣契約を結び直す(Bは関与しない)。
  3. 労働条件の保全:賃金・社会保険・安全配慮等を派遣元Aが中心に再確認。
  4. 第三者相談:状況により都道府県労働局へ相談。内部監査の結果・是正策を記録。

よくあるQ&A

Q1. SES(準委任)で客先常駐。二重派遣になりますか?

発注者が直接指揮命令しているなら偽装請負の疑い。請負側の管理者を介した自社主導の業務管理成果・品質責任の実態が不可欠です。

Q2. B社の都合で、派遣社員を一時的にC社の現場応援に出したい

NG。A⇔Cで派遣契約を結び、労働者の同意や就業条件の調整を行うこと。Bが“人を回す”形は二重派遣に当たります。

Q3. 罰せられるのは誰?

B(供給元になってしまった派遣先)とC(供給を受けた会社)が対象。第44条違反として第64条の罰則(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)が適用され得ます。

まとめ(要点の再確認)

  • 二重派遣は、派遣先が“さらに人を回す”行為で、職業安定法第44条が禁止する労働者供給に該当。
  • 違反すると供給した側・受けた側の双方が、第64条により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金のリスク。
  • 「請負」「SES」「在籍出向」など形式名だけでは判断不可実態(37号告示)で線引きし、設計・運用・監査を一体で回すことが肝要。

「うちは大丈夫?」と不安になったら、まずは現状の資料(契約書・体制図・指示系統の運用ルール)をお持ちください。合法・安全・効率の三拍子を両立する仕組みづくりを、実務目線でお手伝いします。

本記事は公開行政資料・条文に基づき執筆していますが、個別事案では事実関係や契約の設計により結論が変わります。具体案件は必ず専門家へご相談ください。

[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]

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