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【徳島を拠点に全国対応】企業の経営課題を共に解決すべく専門家(社会保険労務士/中小企業診断士)として活動しています。
2025-10-16

中小企業の成果と職場の雰囲気を同時に高める——「PM理論」完全ガイド

リーダー育成や現場改革が思うように進まない——。その原因は、目標達成(P)と人間関係の維持(M)という“二つの車輪”のどちらかが欠けているからかもしれません。本稿では、三隅二不二博士が1966年に提唱したPM理論を、中小企業・個人事業主でも今すぐ使える実践手順に落とし込み、導入から定着までをわかりやすく解説します。

PM理論とは何か(要点サマリー)

三隅博士は、第一線の監督者から抽出した450のリーダー行動を精査し、生産性や事故減少と強く関係する63項目を指標化。子分析により、リーダーシップ行動は次の2大機能に整理できると示しました。

  • P機能(Performance:目標達成能力)…目標設定・計画・指示・叱咤・評価など、成果を出す力
  • M機能(Maintenance:集団維持能力)…信頼関係づくり・傾聴・支援・公正・承認など、チームを保つ力

この2軸の強弱によりリーダータイプをPM型/Pm型/pM型/pm型の4象限で捉えます。とりわけ**PM型(PもMも強い)**が理想的で、国内はもとより海外でも再現性をもって検証・活用されてきました。

なぜ今、PM理論が中小企業に効くのか

h3: 複合課題を同時解決する設計

  • **納期・品質・売上(P)**と、**定着・育成・心理的安全性(M)**を同時に扱える。
  • 人手不足・多能工化・属人化解消など、現実の課題に直結。

h3: 現場言語に落とし込みやすい

  • 「会議の運営」「OJTのやり方」「注意の仕方」など、行動レベルで実装可能。
  • 研修だけで終わらず、日次・週次の運用に落ちる。

4つのリーダー類型と現場での症状

h3: 【PM型】PもMも強い(理想)

  • 症状:目標を達成しつつ、離職・不満が少ない。人が育つ。
  • 注意点:過負荷で“できる上司に集中”しないよう、仕組み化が必要。

h3: 【Pm型】P強・M弱(数字は出るが人が疲弊)

  • 症状:短期で売上・生産は上がるが、離職・対立・現場の硬直が進む。
  • 処方:1on1・傾聴・称賛・公平な評価、Mの意図的強化

h3: 【pM型】P弱・M強(雰囲気は良いが数字が停滞)

  • 症状:仲は良いが期限遅延・ミスの放置・曖昧な役割
  • 処方:KPI・納期・責任範囲・標準作業の明確化、Pの仕組み化

h3: 【pm型】PもMも弱(機能不全)

  • 症状:目標不在、指示も支援も曖昧。不信・遅延・事故が増える。
  • 処方短期のテコ入れ(Pの最小限整備)→Mの立て直しの順で。

P機能/M機能を“行動”に分解する

h3: P機能を高める行動

  • 目標の具体化:売上、歩留まり、納期遵守率、粗利、在庫日数などを数値化
  • 計画と役割:WBS、担当、期限、優先順位、RACI
  • 標準化:SOP、チェックリスト、作業要素分解、異常時フロー
  • モニタリング:日次ボード、週次レビュー、Gembaウォーク、Andon
  • 評価と是正:達成・未達の背景分析、是正措置、再発防止

h3: M機能を高める行動

  • 傾聴と対話:1on1、確認質問、復唱、サマリー
  • 公正:評価基準の公開・運用、機会の平等、透明な配分
  • 承認:行動承認・成果承認・学習承認の3段階
  • 育成:スキルマップ、OJT、ペアリング、フィードバック
  • 心理的安全性:反対意見歓迎、失敗の学び共有、責めない検証

かんたん自己診断(各5点満点、合計50点)

h3: P診断(5項目)

  1. 目標は数値+期限で明確か
  2. 役割・責任が文書化されているか
  3. 標準作業・チェックリストが現場で使われている
  4. 進捗レビューを週次以上で回しているか
  5. 未達の要因分析と是正措置が動くか

h3: M診断(5項目)

  1. 1on1が月1回以上で継続しているか
  2. 評価・昇給の基準と手順が公開されているか
  3. 承認・称賛が行動レベルで具体的
  4. 学びの場(OJT/勉強会)が定例化しているか
  5. 反対意見・失敗談を歓迎する風土があるか
  • 42点以上:ほぼPM型。仕組みで維持を
  • 30〜41点:Pm or pM傾向。弱い側を重点強化
  • 29点以下:pm傾向。90日集中改善を推奨

90日でPM型へ寄せる実装ロードマップ

h3: フェーズ1(1〜30日)最小のP整備+対話の土台

  • P:2〜3指標に絞ったKPI(例:納期遵守率・歩留まり・粗利)を掲示
  • M:1on1開始(30分×月1)、承認ルール「行動+具体+即時」を徹底
  • 仕組み:**週次リーダー会議(60分)**を固定化

h3: フェーズ2(31〜60日)標準化と見える化

  • P:トップ3工程のSOP化、日次ボード運用開始
  • M:スキルマップ作成、OJTペアリング、評価基準の草案共有
  • 仕組み:**問題解決ボード(未解決→原因→対策→効果)**を導入

h3: フェーズ3(61〜90日)評価運用と自走化

  • P:未達案件のA3報告(背景→要因→対策→再発防止)
  • M:評価基準の試行、承認の月次振り返り、学び共有会開催
  • 仕組みKPI×人材のダッシュボードで月例経営会議に接続

業種別ミニケース

h3: 製造業

  • 課題:歩留まり・段取りロス・安全事故
  • P打ち手:作業要素分解→異常時フロー→日次ボード
  • M打ち手:KYミーティングに承認1件必須ルール、横展開会

h3: 小売・EC

  • 課題:在庫回転・欠品・CS
  • P打ち手:SKU別在庫日数目標、発注SOP、CS応対標準
  • M打ち手:クレーム共有会を学習会に、功績の可視化

h3: 医療・介護

  • 課題:ヒヤリ・ハット、引継ぎミス、定着
  • P打ち手:申し送りSOP、インシデントA3レビュー
  • M打ち手:感情労働対策の感謝・承認の定例化、ピアサポート

h3: 官公庁・教育

  • 課題:手続き遅延、縦割り
  • P打ち手:案件WBS、締切逆算、意思決定フロー可視化
  • M打ち手:部門横断のラーニングサークル、成功事例共有

よくある誤解と落とし穴

h3: 「PかMか、どちらかだけ頑張ればよい」

両輪必須。短期はP偏重で数字が動いても、離職・反発で持続しない。

h3: 「Mは優しさだから、厳しさと相反する」

Mは“働きやすさの設計”。基準の明確化やフィードバックはMの中心行動。

h3: 「PM型はカリスマにしかできない」

会議体・SOP・ボード・評価基準などの仕組み化で再現できる。

KPI設計テンプレ(P×Mを同時に追う)

h3: P指標(例)

  • 納期遵守率、歩留まり、仕掛在庫日数、粗利率、受注リードタイム、一次解決率

h3: M指標(例)

  • 1on1実施率、承認件数/月、エンゲージメント短尺サーベイ、スキル保有者比率、離職率

h3: ダッシュボードの運用

  • 週次:現場レビュー(異常検知・即応)
  • 月次:経営会議(傾向分析・資源配分)
  • 四半期:評価制度の見直し・スキル投資計画

育成の型:PM行動を“回す”トレーニング

h3: 1on1の黄金パターン(30分)

  • 5分:雑談・心理的安全性の確保
  • 10分:目標・進捗・障害の棚卸(P)
  • 10分:支援・リソース・学習計画(M)
  • 5分:合意事項と次回アクション

h3: OJTのフレーム(TWI応用)

  • 教える順番:目的→重要点→理由→やって見せる→やらせる→フィードバック
  • 効果測定:操作精度・時間・再現率・ヒヤリ件数

導入の社内合意を得るコツ

h3: 反発を減らすストーリー

  1. 事実提示:遅延、歩留まり、離職の現状データ
  2. 望ましい姿:PM型の具体画(指標と行動)
  3. 小さな成功:90日プロジェクトで早い勝ちを作る
  4. 展開:現場の成功者に語らせる→横展開

h3: 評価制度との一体化

  • 行動基準にP/M行動を織り込み、昇給・任用に連結。
  • 承認文化を制度で後押しする(表彰・称賛会・ピアボーナス等)。

PM理論の国際展開と示唆

日本の製造・サービス現場で蓄積されたメソッドは、米欧・アジアでも**“成果と関係性の両立”**という普遍テーマに適用可能でした。多様な人材が混在する環境ほど、行動基準の明確化(P)と、信頼・公正の設計(M)が効きます。国内外の事例に学びつつ、自社の文脈に合わせて最小構成で試す→学ぶ→伸ばすが成功の王道です。

まとめ:PM型は「才能」ではなく「仕組み」で再現できる

  • **P(目標達成)M(集団維持)**の両輪が回ると、結果も人も良くなる。
  • まずは90日で、KPI2〜3、1on1、SOP、週次会議、承認の5点に絞って着手。
  • 仕組み化すれば、個人差に依らないPM型リーダーを増やせる。

よくある質問(FAQ)

h3: Q1. ベテランが反発します。

A. いきなり全面導入せず、小チームの90日実験で成果を示し、ベテランの知恵をSOPへ反映。「経験の形式知化」を敬意ある役割にするのがコツ。

h3: Q2. 忙しすぎて1on1の時間が取れません。

A. 月30分×部下人数で設計。アジェンダ定型化と5分のスポット1on1(現場での短い対話)を併用。ミーティング総量は週次会議の短縮で捻出。

h3: Q3. 評価が形骸化しませんか?

A. 行動基準にP/M行動例を埋め込み、観察可能な証跡(ボード、SOP遵守、A3、承認ログ)で裏づけ。四半期ごとの校正ミーティングで基準ブレを補正。

[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]

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