toggle
【徳島を拠点に全国対応】企業の経営課題を共に解決すべく専門家(社会保険労務士/中小企業診断士)として活動しています。
2025-10-27

BEI(Behavioral Event Interview)とは?―中小企業の採用・配置・育成が変わる“行動事実”インタビュー

はじめに:なぜ今、BEIが中小企業に必要か

採用したのに早期離職、面接では高評価だったのに現場で伸びない――そんな「面接のミスマッチ」に悩む経営者・採用担当者は少なくありません。BEI(Behavioral Event Interview:行動事実面接)は、応募者や社員の過去の具体的な行動事実に焦点を当て、その思考・判断・価値観をあぶり出すインタビュー手法です。事前に誘導的な質問項目を並べるのではなく、成功・失敗を含む実体験の“物語”を深掘りすることで、将来の行動をより確からしく予測します。
中小企業にとっての価値は明快です。(1)採用の精度向上、(2)配属の適正化、(3)育成の優先順位明確化
――限られたリソースで最大の人材投資効果を得られます。

BEIの基本:定義と考え方

BEIとは何か

  • Behavioral Event Interviewの略。
  • 面接官が特定の“誘導質問”を用意せず、候補者が自発的に語る過去の重要経験を軸に、事実・行動・結果・学びを詳細にたどる手法。
  • 目的は、当人が重要だと見なす価値観や意思決定パターンを抽出すること。

従来型面接との違い

  • 一般的な構造化面接:事前質問を並べ、Yes/Noや短答で比較評価しやすい。
  • BEI具体エピソードの深掘りが中心。表面的スキルより、行動原理・再現性に迫る。

なぜ“過去の行動”を問うのか

研究・実務の蓄積で、過去の行動は将来の行動の最良の予測因子の一つとされます。特に中小企業では、マニュアル化されていない局面が多く、自律的に考え、動けるかが業績を左右します。BEIはこの点に強い。

BEIの中核プロセス:STARで聞き切る

STARフレーム

S(Situation)状況/T(Task)課題/A(Action)行動/R(Result)結果 の順に具体化します。

深掘りの代表的プロービング

  • S/T:誰が関与?制約は?成功指標は?期限は?
  • A:最初に何を決めた?なぜその順番?他案は?リスクは?関係者への働きかけは?
  • R:定量結果は?副作用は?関係者評価は?振り返りで何を変えた?

口述データの質を高めるコツ

  • 具体名・数字・時系列を必ず引き出す(例:「売上を伸ばした」→「3か月で前月比+18%」)。
  • 伝聞や推測(“だと思います”)ではなく当人の行為に焦点。
  • 成功だけでなく失敗事例も1件以上聞く(学習能力の評価)。

実装手順:今日から始めるBEI

ステップ1—職務と行動特性(コンピテンシー)の定義

まずは職務ごとに高業績者の行動特性を言語化します。

例)営業職のコア特性

  1. 案件創出力(仮説構築→検証→継続改善)
  2. 関係構築・影響力(キーパーソン同定、反対意見の処理)
  3. 実行持続力(障害時の代替策、自己管理)
  4. 数値責任(KPI設計、差異分析、再現プロセス化)
  5. 学習・再現性(失敗の内省→仕組み化)

ステップ2—インタビュー設計(タイムボックス)

  • 全体60分を目安
    • イントロ5分(趣旨説明・同意)
    • 成功事例20分(STAR深掘り)
    • 困難事例20分(STAR深掘り)
    • 追質問10分(対比・学習)
    • クロージング5分(質問受付・次案内)

ステップ3—質問テンプレート(そのまま使える)

  • 成功エピソード:「あなたが特に誇りに思う成果を1つ選び、発端から結果まで、実名や数値を含めて順に教えてください。」
    • 「目標は何でしたか?どう測りましたか?」
    • 「最初の1週間で何をしましたか?」
    • 「関係者の反対や障害は?どう乗り越えましたか?」
    • 「結果は数値で?他者の評価は?」
    • 「次回は何を変えますか?」
  • 失敗・挫折:「期待どおり進まなかった事例を1つ。どの判断が分岐点でしたか?なぜその判断?その後の修正は?」
  • 再現性:「同じ状況が再発したら、最初の24時間で何をしますか?」

ステップ4—記録と評価(面接官2名体制推奨)

  • 記録:逐語メモ+キーワード(数字・固有名・時系列)
  • 評価:後述の行動指標ルーブリックで独立採点→合議
  • バイアス低減
    • 序盤の印象に引きずられないよう項目別評点を先に固める
    • 事実⇄解釈を分けてメモする(解釈は色分け)

評価設計:行動指標ルーブリック(例)

5段階行動指標(営業職例)

特性1 不十分3 標準5 卓越
仮説→検証仮説なし・偶然依存仮説立案・一部検証多案比較・素早いピボット
関係者調整受動的対立点整理し合意形成反対勢力を巻き込み推進
実行持続障害で停止代替策で継続同時並行で複線化し短縮
数値責任結果のみ把握KPI設計し報告原因分解→再現手順化
学習再現反省止まり学びを次に適用組織へ仕組みとして展開

ポイント:エピソードに具体数値・固有名詞・再現手順が含まれるほど高評価。

採用・配置・育成での使い方

採用

  • ジョブ要件に直結したBEIを実施 → ルーブリック採点 → 閾値未満は不採用など明確基準。
  • 適性検査や課題プレゼンと相互補完させ精度を上げる。

配置

  • 入社時・試用期間中に強み/弱みマップを作成。
  • 対人折衝が強い人は新規開拓へ分析優位の人は既存深耕へなど、強みに寄せた配属で立ち上がりを加速。

育成

  • BEIで特定した伸ばすべき特性に紐づくOJT課題を設計。
  • 失敗エピソードの学習化を1on1で支援。次回のSTAR設計まで伴走。

よくある失敗と対策

失敗1—面接官が“説教”する

対策:事実確認に徹し、価値判断は最後。**「なぜ?どうして?」**は行動理由の抽出に限定。

失敗2—抽象論で終わる

対策「具体例を1つ」「最初の24時間で何を?」で具体に着地させる。

失敗3—成功談しか出ない

対策困難・失敗も必ず1件。学習と再現性の肝。

失敗4—質問のブレ

対策ジョブ要件→特性→問いの対応を固定。評価は特性別に行う。

失敗5—法令・倫理の見落とし

対策:職務適合に無関係な過度の私生活領域は質問しない。応募者の同意と目的明示、個人情報の適切管理を徹底。

導入ロードマップ(中小企業向け)

0〜1か月:準備

  • 3職種までに絞り行動特性の仮説を作る。
  • 質問テンプレ+評価シートを整備。面接官トレーニング(ロールプレイ2回)。

2〜3か月:試行

  • 新卒・中途各5〜10名でパイロット
  • 合否と試用期間の実績を突き合わせ、ルーブリックを微修正。

4か月以降:本格運用

  • 採用・配置・昇進面談をBEI基準で統一
  • 高業績者のBEIライブラリを社内資産化(匿名化・保護のうえ共有)。

事例イメージ(簡易)

成功エピソード

  • 状況:新規販路の月間売上0→100万円を3か月で達成指示。
  • 行動:仮説3案でABテスト→反応率の高い業界を深耕→キーマン紹介依頼。
  • 結果:3か月で売上120万円、粗利率+5pt、副作用(既存顧客の対応遅延)をSLAで解消。
  • 学び:仮説→検証→仕組み化のサイクルを2週で回すと勝てる。
    評価:仮説検証5、関係者調整4、数値責任5、学習再現5。

困難エピソード

  • 状況:主要顧客の仕様変更で納期遅延リスク。
  • 行動:工程を分解し並列化、要員を午前・午後で入替、顧客合意の中間納品を導入。
  • 結果:遅延1日→0.5日に短縮、再発防止のチェックリスト化。
  • 学び:合意形成の前倒しが最重要。
    評価:実行持続5、関係者調整5、学習再現4。

FAQ

Q1. 構造化面接と併用すべき?

A. 併用推奨。**要件適合(知識・資格)**は構造化、行動再現性はBEIが強い。

Q2. 面接時間が長くなるのでは?

A. 60分を上限に設計。2エピソード+追質問で十分な判定精度を確保できます。

Q3. 面接官スキルの個人差が心配

A. 質問テンプレ・評価ルーブリック・ロールプレイでばらつきを最小化。2名体制での独立採点が有効です。

まとめ:BEIは“人材の再現性”を見抜く強力なレンズ

  • BEIは過去の具体行動から判断基準・価値観・再現性を浮かび上がらせ、採用の精度配置の適正育成の打ち手を高解像度で示します。
  • 中小企業こそ、少数精鋭の採用で失敗できません。BEIの導入は最小コストで最大の人材ROIをもたらします。

[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]

人事評価・賃金改定のことなら「社会保険労務士法人あい」へ

お問い合わせフォーム

関連記事