4週間で4日を確実に休ませる―中小企業のための「変形休日制」完全ガイド
はじめに
季節波動や曜日偏在で忙しさが大きく変わる中小企業では、「毎週必ず同じ曜日を休みにする」運用がかえって非効率になることがあります。こうした現場の実情に合わせて、4週間の中で通算4日以上の休日を柔軟に配分できるのが変形休日制です。本記事では、労働基準法第35条の趣旨を踏まえ、制度の要点、就業規則の定め方、実務の落とし穴、チェックリスト、条文サンプルまでを一気通貫で解説します。
変形休日制とは
法的な位置づけ(労基法第35条)
使用者は労働者に対し、毎週少なくとも1日の休日を与えなければなりません(第35条1項)。
もっとも、就業規則等に定めることで、4週間を通算して4日以上の休日を与える運用(=変形休日制)が認められます。休日は原則連続した24時間(通常は午前0時から翌24時まで)を確保します。
「4週間」の考え方と起算日
「4週間」の単位は、会社が定める起算日からの連続28日間を指します。重要なのは、どの4週間を切り取っても常に4日以上必要という意味ではなく、会社が特定した4週間の枠内で4日以上の休日が確保されていれば足ります。
したがって、就業規則には4週間の起算日(例:毎月1日、毎週月曜日など)を明示しましょう。
「就業規則がない少人数事業場」の周知義務
常時10人未満の事業場には就業規則作成義務はありません。しかし、変形休日制を適用するなら、労働者への明確な周知(書面、掲示、配布、電子配信など)が必須です。シフト表だけで済ませるのではなく、制度の趣旨・起算日・休日配分のルールを文書化しておくのが安全です。
変形休日制と他制度の違い
変形労働時間制との混同に注意
変形休日制は「休日の配分」に関する制度、変形労働時間制(1か月単位・1年単位等)は「労働時間の配分」に関する制度です。併用は可能ですが、規定の目的・根拠条文・運用フローを分けて記述し、シフト設計でも休日確保と法定内時間の配分を別々にチェックしましょう。
導入の基本要件と実務手順
導入前チェック(最低限)
- (1)4週間の起算日を決めているか
 - (2)通算4日以上の休日を確保できる配分か
 - (3)休日は24時間連続を満たす設計か
 - (4)就業規則の整備/周知ができているか(10人以上は労基署へ届出)
 - (5)シフト作成・変更のルール(締切・通知期限・同意取得)が明確か
 
就業規則(または同等文書)に盛り込むべき事項
- 制度趣旨(繁閑対応、顧客需要に応じた休日配分)
 - 4週間の起算日(例:毎月1日開始、または毎週月曜開始)
 - 休日付与の原則(4週間につき4日以上)
 - 休日の確定方法(シフト表の確定期限と通知方法)
 - シフト変更の手続き(労働者同意・代替休日の付与・手当)
 - 法定休日労働が発生した場合の割増賃金(35%以上)と代替措置
 - 年次有給休暇、育児・介護関連措置との調整
 - 健康確保措置(連続勤務の上限目安、深夜勤務の偏在回避等)
 
届出と周知
常時10人以上の事業場は、就業規則(または変更)を労基署に届出(意見書添付)し、社内へ周知します。10人未満でも、必ず文書で周知し、保存・更新履歴を残しましょう。
設計のコツ:具体例で理解する
例1:繁閑差の大きい小売業(4週間の起算日=毎週月曜)
第1~第3週は繁忙(週0~1休)、第4週は閑散(週2~3休)として通算4日以上に調整。
例:休⽇配分=0日→1日→1日→2日(合計4日)。
例2:観光・宿泊業(イベント集中週あり)
イベント週は休みを少なくし、イベント後に連休をまとめて付与。
例:1日→0日→0日→3日(合計4日)。ただし連続24時間の休日を崩さないよう、夜勤明けの取扱いに注意。
例3:製造(メンテ週に休日集約)
月末メンテ週に休⽇を厚めに配分して、月中~月初は稼働日を増やす設計。機械停止スケジュールと合わせてカレンダー化。
よくある落とし穴とリスク回避
① 24時間連続の休日を満たしていない
「前日の22時~当日6時までの8時間+当日の18時~24時の6時間=合計14時間」のような分割は休日ではありません。24時間連続を守るカレンダーを作ること。
② シフト変更の一方的運用
確定後の休日を会社都合で動かす場合は、労働者の同意や代替休日の確保・割増賃金が問題になります。変更手続きフロー(誰が、いつまでに、何で通知し、同意をどう取るか)を規程化。
③ 法定休日労働の割増未払
4週間で4日を確保すれば、休日が「法定休日」ではない日も出ますが、週あたりの法定休日の概念は生きています。定めた枠内の法定休日に労働させた場合は35%以上の割増が必要。代替休日の付与計画もセットで。
④ 36協定の不備
休日配分と時間配分は別物。時間外・休日労働が発生する可能性があるなら、36協定の締結・届出を忘れずに。特に繁忙期は、限度時間管理と健康確保措置が鍵です。
⑤ 年休との衝突・不利益変更の懸念
年次有給休暇の取得希望日を休日へ一方的に振替えるのはNG。年休は労働日の賃金付き休暇として機能させる必要があります。制度導入・見直しで実質的に労働者に不利益が生じる場合は、丁寧な説明・経過措置・同意を。
運用のベストプラクティス
実務チェックリスト
- □ 起算日を明示し、年カレンダーに落とし込んだ
 - □ 4週間ごとに「休日4日以上」を目視とシステムで二重チェック
 - □ 休日は連続24時間を担保(夜勤明けの扱いを規定)
 - □ シフト確定・変更・同意取得の手順と期限を就業規則に明記
 - □ 法定休日労働の割増(35%以上)と代替休日の方針を明記
 - □ 36協定の整備(特別条項の要否、限度基準)
 - □ 年休・育児介護措置・公休・特別休暇の整合性を設計
 - □ 電子掲示・配布・クラウドで周知と履歴保存を実施
 
記録と証跡づくり
監督署対応や労使トラブル防止のため、①休日カレンダー・シフトの版管理、②変更履歴、③個別同意の保存、④割増計算根拠、⑤年休管理簿を整えておきましょう。
Q&A(現場の疑問に即答)
Q1:どの4週間でも常に4日以上の休日が必要ですか?
A:いいえ。会社が定めた特定の4週間(起算日から28日)で通算4日以上を確保できていれば足ります。
Q2:週の途中で区切られた短い休みは休日になりますか?
A:連続24時間に満たなければ休日扱いになりません。
Q3:人手不足で法定休日に出勤させました。どうなりますか?
A:法定休日労働の割増(35%以上)が必要。代替休日の付与方針も整備しましょう。
Q4:10人未満で就業規則がありません。導入できますか?
A:導入自体は可能ですが、制度内容・起算日・休日配分ルールの周知文書を作成・配布し、保存してください。
Q5:変形労働時間制と同時に導入すべきですか?
A:業務特性によります。時間配分(所定労働時間の山谷)も必要なら併用を検討。ただし規定の章立て・運用管理は分けるのが無難です。
導入・見直しの進め方(ロードマップ)
- 現状分析:繁閑データ、来客・受注の曜日偏在、夜勤の有無を可視化
 - 制度設計:起算日、休日配分ポリシー、シフト確定・変更期限を設計
 - 規程化:就業規則(10人以上は届出)/10人未満は周知文書作成
 - 年カレンダー化:4週間ブロックを年間で俯瞰、法定休日労働の発生リスクを事前把握
 - 教育・周知:管理者・従業員へ運用研修、Q&A配布、問い合わせ窓口設置
 - モニタリング:月次で休日数・割増支払・変更履歴を点検、改善サイクル
 
まとめ:柔軟さとコンプライアンスを両立させる
変形休日制は、4週間で4日以上という最低ラインを守りつつ、繁閑に応じて休日を再配分できる実務的な制度です。鍵は、起算日の明示、24時間連続休日、シフト確定・変更の手続、割増賃金の適正処理、そして周知と証跡。これらを押さえれば、働きやすさと生産性の双方を高めることができます。
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[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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