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【徳島を拠点に全国対応】企業の経営課題を共に解決すべく専門家(社会保険労務士/中小企業診断士)として活動しています。
2025-11-07

「5フォース分析」で利益の出る土俵を選ぶ・つくる完全ガイド

はじめに

市場は努力だけでは勝てません。利益が出やすい業界構造か、出にくい業界構造かで、同じ実力でも成果は大きく変わります。ハーバード・ビジネススクールのマイケル・E・ポーター教授が提唱した5フォース分析(Five Forces Analysis)は、業界の“稼ぎやすさ(収益性・魅力度)”を5つの力で見える化するフレームワークです。
本記事では、中小企業・個人事業主の視点で、5フォース分析の考え方、実務への落とし込み方、ありがちな落とし穴、具体的な活用手順までをそのまま使える型
として解説します。

5フォース分析とは何か

5フォース分析は、業界の収益性を規定する以下5つの競争要因(フォース)を評価します。各フォースの力が強い=脅威弱い=機会となり、業界の総合的な稼ぎやすさを判断できます。

  • 新規参入の脅威(Threat of New Entrants)
  • 業界内の敵対関係(競争強度)(Rivalry Among Existing Competitors)
  • 代替品の脅威(Threat of Substitutes)
  • 買い手の交渉力(Bargaining Power of Buyers)
  • 売り手の交渉力(Bargaining Power of Suppliers)

ポイント:5フォースは「自社の内側」ではなく業界構造そのものを評価します。自社の強み・弱みを語るのではなく、「この市場はそもそも儲かる設計なのか」を見極める眼鏡です。

5つのフォースを深掘りする

① 新規参入の脅威

参入障壁の高さを測ります。障壁が低い市場は、プレーヤーが増えて価格競争化→利幅が薄くなりがち。
主な障壁要因

  • 規模の経済(大量生産・仕入でコスト優位を作れるか)
  • 既存ブランド力・顧客ロイヤルティ
  • 規制・許認可・資格(医療・福祉・酒類など)
  • 初期投資額(設備・在庫・IT・研究開発)
  • スイッチングコスト(乗り換えの手間・リスク)
  • サプライチェーン・販路の確保難易度

中小企業の打ち手
ニッチ特化(地域×用途)、ユースケース別の参入微細市場を選ぶ/コミュニティ形成で実質的スイッチングコストを高める/補助金活用で初期投資負担を圧縮。

② 業界内の敵対関係(競争強度)

競合が多く成長が鈍い市場では、値下げ・販促合戦が日常化し利益率が低下します。
強度を高める要因

  • 同質的な商品(差別化が困難)
  • 供給過多/市場成長の鈍化
  • 固定費が大きく、稼働率確保のため価格を下げやすい
  • 退出障壁(設備の汎用性が低く撤退しにくい)

中小企業の打ち手
差別化軸の明確化(品質保証・スピード・小ロット・在庫レス)/価値提案の再定義(製品ではなく成果を売る)/価格以外の比較軸(保証・導入支援・教育)を設計。

③ 代替品の脅威

別カテゴリーが同じ課題をより安く・速く解決する場合、顧客は代替します。
典型例

  • オンライン会議が出張を代替
  • 汎用AIツールが一部の制作・翻訳・分析を代替
  • サブスクが買い切りを代替

中小企業の打ち手
機能の再編(ハード+保守→運用保証・成果コミット)/補完財とのバンドル(導入・教育・運用支援)/**顧客成功(CS)**をKPI化し代替しづらい価値へ。

④ 買い手の交渉力

買い手が強いと値引き圧力がかかり利益が薄くなります。
強くなる条件

  • 買い手が寡占(大口が少数)
  • 乗り換えコストが低い(仕様標準化・似た商品が多い)
  • 情報の非対称が小さい(価格比較の容易さ)
  • 自社品の重要度が低い(他で代替可能)

中小企業の打ち手
直販チャネル強化(EC・コミュニティ)/スイッチングコストの設計(データ移行支援・ポイント)/成功事例の可視化で“安さ”以外の購買理由を増やす。

⑤ 売り手(供給業者)の交渉力

原料・部材・プラットフォームが強いと、仕入れ価格や条件で不利になります。
強くなる条件

  • 供給側が寡占・代替が少ない
  • 自社の購買規模が小さい
  • 重要部材の仕様が限定的
  • 垂直統合で売り手が川下進出

中小企業の打ち手
複線サプライヤーの確保/共同購買・連携(商工会・同業団体)/設計段階で汎用品設計長期契約・前払いによる条件改善。

5フォースを実務に落とす:4ステップ

Step1:業界の定義をミスしない

  • 顧客課題×解決手段で定義する(例:「建設会社の現場巡回連絡」→スマホ・無線・SaaSまで含む)
  • 地域・チャネル・顧客規模で対象市場を限定し、比較可能性を担保

Step2:情報収集の型をつくる

  • 公的統計(生産・販売動向、価格指数)、業界紙、補助金採択事例、決算短信、ECレビュー
  • 顧客インタビュー(代替行動、乗り換え条件、失注理由)
  • 仕入先・物流・プラットフォームの条件表を入手

Step3:各フォースをスコア化(1~5)

  • 1=弱い(機会)、5=強い(脅威)で定量化
  • 根拠データを1行メモで必ず添付
  • 例)代替品の脅威=4 「生成AIの無償プランで顧客の簡易利用が進行」(失注3件記録)

Step4:戦略オプションを設計

  • 回避:構造がきつい市場は狙わない/領域をずらす
  • 緩和:連携・設計変更でフォースを弱める
  • 逆手:代替が強いなら補完に転じる(運用支援・セット販売)
  • 集中:収益性の高いミクロ・セグメントへ資源集中

具体例:中小企業の“あるある”3ケース

1)地域食品加工(椎茸加工・調味料)

  • 新規参入:設備の汎用性が高く参入容易(脅威強)
  • 競争強度:PB・大手が強く価格競争(強)
  • 代替品:海外産・他キノコ・調味料(中~強)
  • 買い手:量販の交渉力が強い(強)
  • 売り手:原材料は天候影響で価格変動(中)
    戦略:B2B量販回避→D2C+ギフト特化ストーリー×レシピで差別化/定期便でスイッチングコスト創出。

2)地域病院向け人材・研修サービス

  • 新規参入:資格・信頼の壁(中~弱)
  • 競争強度:地域に限ればプレイヤー限定(中)
  • 代替品:eラーニング・院内研修(中)
  • 買い手:大口(医療法人)は強め(強)
  • 売り手:講師確保がボトルネック(中)
    戦略:**効果測定(離職率・ES)**を成果保証に組込み/助成金適合で実質価格競争回避/講師育成の内製化

3)中小製造の受託開発(IT/機械)

  • 新規参入:人手さえあれば参入可(強)
  • 競争強度:見積比較で熾烈(強)
  • 代替品:汎用SaaS・海外外注(強)
  • 買い手:情報優位でコスト圧力(強)
  • 売り手:クラウド/部材の価格転嫁(中)
    戦略要件定義~運用の垂直統合で成果(KPI)売りへ/保守サブスクで継続収益化/特定業界テンプレでスピード優位。

5フォースを強くする・弱めるための実装チェックリスト

  • スイッチングコスト:データ移行/導入教育/保証/コミュニティ
  • 差別化:規格外サービス(小ロット・当日対応)/品質証明/第三者認証
  • 売り手対策:複線調達/共同購買/長期契約・前払い
  • 買い手対策:直販チャネル強化/サブスク化/成果連動料金
  • 代替対策:補完財化(運用・分析・レポート)/エコシステム連携
  • 参入障壁:独自データ/地域ネットワーク/許認可・資格

実務テンプレート(そのまま使えるプロンプト)

5フォース分析ワークシート

1. 業界定義(顧客課題×解決手段×地域)

  • 例:「外食店舗の人手不足を、半自動レジと教育で解決(徳島県)」

2. 情報収集ソース

  • 公的統計/業界紙/競合サイト/ECレビュー/顧客10件ヒアリング/仕入先3社条件

3. フォース評価(1=弱~5=強)

  • 新規参入:__
  • 競争強度:__
  • 代替品 :__
  • 買い手力:__
  • 売り手力:__
    根拠メモ(各1行)を必ず記載。

4. 戦略方針(回避・緩和・逆手・集中)

  • 例:量販回避しD2C集中/サブスク化/共同購買で原価-5%

5. 90日アクション

  • 顧客10社インタビュー/価格表の“成果軸”再設計/サプライヤー見直し

よくある誤りと回避策

誤り1:自社目線で語る(強み・弱みの自己PR)

対策:データ出典を付けて業界構造の話に徹する。

誤り2:市場の切り方が広すぎる/狭すぎる

対策:顧客課題で括り、地域・チャネルで実務上の商圏に合わせる。

誤り3:点の情報で判断する

対策複数ソースで裏取り/経時変化でトレンドを見る。

誤り4:分析して終わる

対策90日アクションまで落とし込み、KPI(粗利率・解約率・購買集中度)で効果検証。

5フォース×他フレームの合わせ技

  • 3C(Company/Customer/Competitor):顧客セグメントと競合ポジションを細分化
  • 7S:戦略に合わせて組織・スキル・仕組みを調整
  • バリューチェーン:原価・リードタイムの改善余地を発見
  • ブルーオーシャン:価格以外の比較軸づくり(非顧客・補完財・購入前後体験)

まとめ:勝てる市場を選び、勝てる設計に変える

5フォース分析は、どこで戦うべきかを定め、どう戦えば脅威を機会に変えられるかを導きます。重要なのは、机上の空論にせずデータと現場の声で評価し、90日で試すアクションに落とし込むこと。構造が厳しければ土俵をずらす勇気も必要です。

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  • 「自社業界の5フォースを一緒に診断してほしい」
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中小企業・個人事業主向けに、業界診断→戦略設計→実行支援まで伴走します。
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[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]

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