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【徳島を拠点に全国対応】企業の経営課題を共に解決すべく専門家(社会保険労務士/中小企業診断士)として活動しています。
2025-11-12

シンプルで強い賃金制度へ――「ブロードバンディング」完全ガイド

はじめに

人材の役割や責任が高速で入れ替わる時代、細かく分かれた等級・等差は運用が重くなり、異動や昇給のたびに「制度の壁」にぶつかりがちです。**ブロードバンディング(Broadbanding)は、資格・職務等級を細かく区切らず、ある程度の範囲を大きなバンド(帯)**で括るシンプルな賃金・等級の設計思想。近年は、職務の入れ替わりが早い中小企業での導入が増えています。本稿では、仕組み・メリット/デメリット・設計手順・サンプルレンジ・法的留意点まで、実務でそのまま使えるレベルで解説します。

ブロードバンディングとは

定義

ブロードバンディングは、**小刻みな等級を統合して少数の広い等級(=バンド)**に再編する仕組みです。
狙いは次の3つです。

  1. 機動性:役割・責任の見直しと人材の異動を早くする
  2. 運用の簡素化:職務や等級の頻繁な見直しに伴う事務負担を削減
  3. 分かりやすさ:等級の違いを直感的に理解できる制度にする

従来制度との違い

  • 職能等級(スキル・熟練度)中心:昇格の要件が増え、運用が複雑化しやすい
  • 職務等級(ジョブ)中心:市場水準との整合は取りやすいが、職務変更時の再評価が頻発
  • ブロードバンド:**「役割・責任の幅」**を主軸に少数のバンドで運用。横移動も昇給設計で吸収しやすい

向いている企業像

  • 組織や商品構成の変化が早い
  • 人数が少なく一人二役が常態
  • 昇進段数を短縮し、キャリアの見通しを良くしたい

メリットとデメリット

メリット

  1. スピード対応:新規事業・配置転換・役割拡張を等級変更なしで吸収
  2. 人件費の見える化:バンド×給与レンジで原価化/予算化が容易
  3. キャリアの明快化:昇格段数が減り、到達目標が明確
  4. 横断的人材活用:部門横断の**“キャリア・ラティス”**(縦横キャリア)を設計しやすい

デメリット/リスク

  1. 裁量依存の偏り:管理者の裁量で評価のばらつきが生じやすい
  2. 賃金逆転:広いレンジゆえ、同一バンド内の逆転が起きる可能性
  3. 説明責任の難度:昇格の“段差”が少ない分、昇給根拠の言語化が不可欠
  4. 導入初期コスト:移行時のレッドサークル/グリーンサークル(上限超過/下限未満者)の処理が必要

法的・制度上の留意点(日本)

不利益変更の禁止(労働契約法)

現行制度からの移行で賃金引下げ等の不利益が出る場合、原則として個別同意合理性の確保が必要。就業規則変更のみでは足りない場面が多いため、経過措置を設計しましょう。

同一労働同一賃金

同一バンドでも、職務内容・責任・成果が異なると処遇差の合理性を説明できるよう**“期待役割基準”を明文化。手当・賞与の評価尺度**も紐づけます。

賃金支払の5原則・最低賃金

広いレンジでも最低賃金適合毎月払い・通貨払い等の原則は当然遵守。

制度設計=人事の自由ではなく、法令と整合するガバナンスが大前提です。

設計の基本手順(6ステップ)

1. ジョブファミリー設計

  • 例:営業、コーポレート、製造/オペレーション、開発/IT、カスタマーサクセス
  • 同種の価値提供を束ね、横比較がしやすい粒度にまとめます。

2. バンド(広い等級)の数を決める

  • 推奨:3~5バンド(多くても7まで)。中小企業なら4バンドが運用容易。
  • 例:Band 1(担当)/ Band 2(上級・リーダー)/ Band 3(マネジャー)/ Band 4(部門責任者)

3. レンジ設計(ミッドポイント・幅・オーバーラップ)

  • **ミッドポイント(市場中央値)**を決め、**レンジ幅は±15~25%**を目安に。
  • バンド間オーバーラップは**20~30%**程度に設定するとスムーズな横移動が可能。
  • 例:Band 2が28万~40万、Band 3が35万~55万のように一部重なる設計。

4. 期待役割とスキルアーキテクチャ

  • 各バンドに**“期待成果・責任範囲・意思決定権限”を記述(1ページ程度の役割定義書**)。
  • スキルは必須/望ましいに分け、研修・OJTと紐づける。

5. 移行ルール(レッド/グリーンサークル)

  • 上限超過(レッド):昇給停止・一時金寄せ・役割再設計などで自然収斂
  • 下限未満(グリーン)段階是正(例:半年でレンジ内へ)を明文化

6. 昇給・賞与・昇格の運用

  • 昇給:評価×レンジ位置(P×C)マトリクスで配分
    • 例:評価S/A/B/C × レンジ下位/中央/上位で昇給率を可変
  • 賞与会社業績×部門業績×個人評価の三層
  • 昇格期待役割の持続的達成次バンドの一部役割を代替できること

モデル設計サンプル(中小企業・月例給与)

地域・業界相場により調整必須。以下はイメージです。

バンドとレンジ

  • Band 1(担当):230,000~320,000円
    • 例:定型業務、個人目標の達成
  • Band 2(上級/リーダー):280,000~400,000円
    • 例:小規模プロジェクト主担当、後輩育成
  • Band 3(マネジャー):350,000~550,000円
    • 例:チーム目標の策定と達成、採用・評価
  • Band 4(部門責任):500,000~800,000円
    • 例:事業KPI責任、予算/投資判断、対外折衝

昇給テーブル(例)

  • S:4.0~6.0% / A:2.0~3.5% / B:0.5~1.5% / C:0%
  • レンジ上位者は低率、レンジ下位者は高率で追い上げる(コンパレートレシオ是正

移行時の処理

  • レッド:昇給は一時停止、一時金・特別手当に置換(総額人件費管理)
  • グリーン:半年で2段階是正(初回で50%、2回目で100%)

評価・等級を運用で“回す”ための要点

1on1と四半期レビュー

  • 「期待役割→成果→報酬」の線を毎期言語化
  • 1on1は目標の再定義と**学習機会(動機×手段)**の合意に活用。

役割の更新速度

  • 新規事業や工程変更時は役割定義書の版上げ(v1.1→v1.2)で追随。
  • 更新は**“職務発生から30日以内”**を内規化。

情報公開の範囲

  • バンド構造・レンジ幅は全社公開。ミッドポイントやマーケットデータは人事限りでも可。
  • 昇給原資配分ロジック年1回の全社説明で信頼を担保。

よくあるつまずきと対策

① 「広すぎて不公平」に映る

  • レンジ位置(下位/中央/上位)の定義是正ルールを明文化。
  • 例:同一バンド・同職務連続2期Sならレンジ中央以上を保証。

② “昇格減少=モチベ低下”

  • 段差が減る分、**報酬・役割の“マイクロステップ”**を用意(リーダー手当、職務拡張手当、専門認定など)。

③ 管理者の目利きが追いつかない

  • 評価ガイド(事例集)とキャリブレーション会議でばらつき抑制。
  • 年2回、部門横断レビューを必須化。

④ 法的リスクが怖い

  • 不利益変更が出る場合は個別同意+経過措置の二段構え。
  • 就業規則・賃金規程・評価規程同時更新し、文言の整合を取る。

FAQ(よくある質問)

Q1:職能資格や等級制度があるが、そのまま使える?

はい。既存等級を統合してバンド化し、評価・昇給ロジックをブロード向けに再設計します。

Q2:バンドは何個が正解?

3~5個が目安。人員100名未満なら4個が運用しやすい。

Q3:専門職の高給をどう扱う?

専門職トラックを同一バンドに並走させ、専門給/認定で差を表現。管理職へ無理に寄せない。

Q4:市場データが手に入らない

まずは社内中央値から始め、採用・離職データで毎年補正。外部調査は重要職種だけスポット購入も有効。

まとめ

ブロードバンディングは、変化の速い中小企業に合う、軽く強い賃金・等級の設計です。広めのバンドで人材機動性を高め、運用の簡素化説明責任の明確化を両立できます。成功のカギは、期待役割の言語化レンジ位置の是正ルール法令整合、そして定点観測KPI。まずは既存制度をざっくり棚卸しし、**「4バンド+±20%レンジ」**の試算から着手しましょう。

問い合わせ(無料ヒアリングのご案内)

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「自社に合うバンド数/レンジ幅の仮設計を見てみたい」という段階でもOKです。
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[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]

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