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【徳島を拠点に全国対応】企業の経営課題を共に解決すべく専門家(社会保険労務士/中小企業診断士)として活動しています。
2025-11-18

「プロジェクト・チーム」とは?―専門性を束ねて短期間で成果を出す仕組みづくり

中小企業の経営者・個人事業主の方とお話ししていると、次のような悩みをよく耳にします。

  • 新しい商品・サービスの企画が進まない
  • DXや新システム導入が「やりっぱなし」で定着しない
  • 補助金を活用したいが、日常業務に追われて計画づくりが後回しになる
  • 「誰の仕事なのか」があいまいなまま、重要テーマが放置されている

これらの多くは、「通常業務の延長線上では解決しにくいテーマ」であり、本来は“プロジェクト”として扱うべき内容です。そして、そのプロジェクトを推進するための専門的な作業集団が「プロジェクト・チーム」です。

本記事では、中小企業経営者・個人事業主の方向けに、

  • プロジェクト・チームの基本的な考え方
  • 日常業務との違い
  • 中小企業が導入するメリットと注意点
  • 実務的な立ち上げ・運営のポイント

を分かりやすく解説します。

経営における管理活動の対象は、本来「日々繰り返される定常業務」です。
例えば、製造業であれば「毎日の生産」「出荷」や「在庫管理」、小売・サービス業であれば「接客・販売」「仕入」「請求・入金」などが該当します。これは、同じプロセスが長期にわたって繰り返される仕事です。

一方、プロジェクトとは、

  • 一定期間内に完了させるべき「一回限り、または限定的な取り組み」であり
  • 明確な目的・成果物(アウトプット)が定義され
  • 期日(期限)が設定されているもの

を指します。

例としては、

  • 特定製品の新規開発
  • 新店舗・新拠点の立ち上げ
  • 特定の土木工事・建築工事
  • 新システム導入(勤怠システム、ECサイト構築など)
  • 事業再構築や新事業の立ち上げ

などが代表例です。

プロジェクトは、その性質上「従来の固定的な組織」だけでは十分な成果が得られないことが少なくありません。
そこで、プロジェクトの特質に応じて、

  • 営業
  • 製造・技術
  • 経理・財務
  • 人事・総務
  • 情報システム
  • 外部の専門家(社労士、中小企業診断士、税理士など)

といった各専門分野からメンバーを選抜し、一時的な作業集団を編成します。これが「プロジェクト・チーム」です。

言い換えると、

プロジェクト・チームとは、特定のプロジェクトを一定期間内に完了させるために、専門家・有識者を横断的に集めた“期間限定のチーム”
と整理できます。

個々のプロジェクトを、それぞれ独立した単位として企画・実行・管理していく経営管理のやり方を「プロジェクト・マネジメント」と呼びます。

  • プロジェクト・チーム:プロジェクトを動かす“人の集まり(組織)”
  • プロジェクト・マネジメント:プロジェクトを計画・実行・管理する“仕組み・手法”

という関係を押さえておくと理解しやすくなります。

通常、「新しいことをやる」ときにありがちなのは、

  • 社内の誰の仕事かはっきりしない
  • 結局、社長やごく一部の人だけが抱え込む
  • 会議はするが、決めても動かない
  • 日常業務に押されて先送りされる

といった状況です。

一方、プロジェクト・チームとして正式に立ち上げると、

  • プロジェクトの目的・ゴールが明文化される
  • 担当メンバーが明確になる
  • 期限とスケジュールが共有される
  • 会議ではなく“実行の場”として機能しやすい

ため、スピードと実行力が格段に高まります。

プロジェクトには、複数部門の知識・判断が必要になることが多くあります。
例えば、「新商品開発プロジェクト」であれば、

  • 営業:市場ニーズ、顧客の声、販売チャネル
  • 製造・技術:製造方法、品質、コスト
  • 経理:利益計画、投資回収シミュレーション
  • 総務・人事:人員計画、労務リスク

など、多様な視点が求められます。

プロジェクト・チームでは、これらの専門性を“その場で持ち寄り、議論し、決めていく”ことができるため、現実的で実行可能性の高い計画をつくりやすくなります。

プロジェクト・チームへの参画は、社員にとっても重要な成長機会です。

  • 通常業務では経験できないテーマに挑戦できる
  • 他部門のメンバーと一緒に仕事をすることで視野が広がる
  • プロジェクトの成功体験が自信につながる

結果として、

  • 次世代リーダー候補の発掘・育成
  • 部門間のコミュニケーション向上
  • 組織全体の一体感の醸成

にも大きく寄与します。

特に中小企業では、「新しいことは全部社長が一人で考えて、一人で動く」という状態になりがちです。これはスピード感がある一方で、社長の時間とエネルギーの限界が早く訪れます。

プロジェクト・チームを活用することで、

  • 社長は“方向性の提示・意思決定”に専念
  • 実務の多くはプロジェクト・チームに委ねる

という役割分担が可能となり、経営に余裕が生まれます。

「プロジェクト・チームを作ってみたものの、思ったほど機能していない」というケースもあります。その多くは、次のようなつまずきに原因があります。

よくある問題は、

  • 「とりあえずDXプロジェクト」「とりあえず新商品プロジェクト」と名付けただけで、具体的に何を達成するのか決まっていない
  • 成果物(アウトプット)・期限・成功基準が共有されていない

という状態です。

  • メンバーが「自分の仕事」と認識できず、優先度が上がらない
  • 会議が「情報共有の場」で止まり、意思決定や行動に結びつかない
  • 途中で何をしているのか分からなくなり、自然消滅する

プロジェクト・チームを立ち上げる際は、後述するように「目的・ゴールの言語化」が最重要ポイントになります。

  • 何をどこまでチームの判断で決めてよいのか
  • どこから先は社長・役員の決裁が必要なのか

が曖昧なまま進めると、

  • 決めたことが後からひっくり返される
  • 担当者の責任ばかり重く感じられ、主体性が失われる
  • 「どうせ決めても変わる」と考え、議論が形骸化する

といった問題が起こります。

中小企業のメンバーは、プロジェクト専任ではなく「通常業務との兼任」であることがほとんどです。そのため、

  • プロジェクトの会議が多すぎて、現場が回らなくなる
  • 繁忙期になるとプロジェクトが完全に止まる
  • 上司によっては「プロジェクトより自部署の仕事を優先しろ」と指示する

といった摩擦が生じます。

中小企業では、「フルタイムのプロジェクト専任者」を置くのは現実的でないことも多いため、

  • プロジェクトの負荷を月○時間程度に抑える
  • 繁忙期・閑散期を踏まえてスケジュールを組む
  • 各メンバーの上司と事前に調整し、理解を得ておく

といった工夫が欠かせません。

最初に必ず押さえるべきは、「なぜこのプロジェクトをやるのか」「いつまでに、何を達成するのか」を言語化することです。

  • 会社の中期目標・経営課題とつながっているか
  • 数字や期限で表現できているか(売上・利益・件数・日付など)
  • メンバーが聞いて「なるほど、やる価値がある」と納得できるか

例)

  • 目的:既存顧客への単価アップを図り、収益性を高めるため
  • ゴール:半年以内に新セット商品の販売を開始し、1年後に月商+100万円を達成する

次に、「どんな知識・経験が必要か」から逆算してメンバーを選びます。

  • 営業(顧客ニーズ、販売チャネル)
  • 製造・技術(品質、原価、製造方法)
  • 経理・財務(採算管理、投資回収)
  • 人事・総務(人員・労務リスク)
  • システム担当(IT活用)
  • 外部専門家(補助金、法務、労務など)

といった候補の中から、「このプロジェクトにとってキーパーソンとなる人」を選抜します。

  • 「役職」だけでなく、「現場を一番よく知っている人」を入れる
  • 将来の幹部候補を意図的にメンバーに入れ、育成の場とする
  • 外部専門家を“チームの一員”として位置づけることで、社内の負担を減らす

など、中小企業ならではの柔軟な人選が可能です。

プロジェクト・チームには必ず「リーダー(プロジェクトマネージャー)」が必要です。
リーダーの主な役割は、

  • 目的・ゴールの共有と維持
  • スケジュール管理・優先順位の整理
  • 社長・経営層との橋渡し(報告・相談・決裁)
  • メンバーの役割分担とフォロー
  • 会議のファシリテーション

などです。

  • 調整力(部門間・社長との調整)
  • コミュニケーション力(情報共有と巻き込み)
  • 最後までやり抜く粘り強さ

必ずしも「一番偉い人」「一番の専門家」である必要はなく、「人や仕事を動かすことができる人」が適任です。

プロジェクト・チームを運営するうえで、最低限次のルールを決めておくと、ぐっと回りやすくなります。

  1. 会議の頻度
     ― 例:月2回、1回60分まで など
  2. 報告の形式
     ― 例:A4一枚の簡易報告書、チャットツール、共有フォルダなど
  3. 決裁のフロー
     ― 例:○万円までの支出はリーダーの裁量、超える場合は社長決裁 など
  4. ドキュメントの保存場所
     ― 例:共有クラウドの特定フォルダに集約し、「どこを見れば分かるか」を統一

ルールはシンプルで構いません。「全員が迷わず動けるレベル」で整えることが重要です。

プロジェクト・チームを機能させるには、マネジメントの「型」をシンプルに取り入れることが有効です。

  • プロジェクト期間の全体像をざっくりと描く
  • 途中の「チェックポイント(マイルストーン)」を設定する

例)

  • 1か月目:現状分析・アイデア出し
  • 2か月目:試作品・試行の実施
  • 3か月目:正式版の決定・準備
  • 4か月目:本格運用開始

といった形で、「いつ何を終わらせるか」を見える化します。

いきなり「新商品開発」といっても、具体的に何をすればよいか分かりません。そこで、

  • 顧客ニーズの調査
  • コンセプト設計
  • 試作・テスト
  • 原価試算
  • 販促ツール作成
  • 販売チャネル整備

など、細かなタスクに分解していきます。これを「タスク分解(WBS:Work Breakdown Structure)」と呼びます。

  • 「誰が」「いつまでに」「何をするか」が明確になるレベルまで分解する
  • タスクごとに優先順位と締切を決める
  • 進捗管理はシンプルな一覧表で十分(Excelやクラウドツールなど)

プロジェクトには必ず、

  • 人員不足
  • 繁忙期とのバッティング
  • 予算オーバー
  • 社内の抵抗感・反発

などのリスクがつきものです。
これらを「起こってから考える」のではなく、事前に洗い出しておき、

  • 事前に対策しておく
  • 起こったときの代替案を用意しておく

ことで、致命的なトラブルを回避しやすくなります。

  • 営業:顧客の声・ニーズの収集
  • 製造:技術面・原価の検討
  • 経理:採算性のチェック
  • 総務:契約条件やリスクの確認

といったメンバーでチームを組み、
「半年後の展示会までに、新商品○点をラインナップする」など、具体的なゴールを設定して進めます。

  • 勤怠・給与システムの入れ替え
  • ECサイトや予約システムの導入
  • 顧客管理(CRM)の整備

などは、現場の運用を理解したメンバーが中心となってプロジェクト・チームを組むことで、「入れただけで使われないシステム」になるリスクを抑えられます。

  • 経営者
  • 経理担当
  • 現場責任者
  • 外部専門家(中小企業診断士・社労士など)

を含むプロジェクト・チームを組むことで、

  • 申請書の内容と実際の現場の取り組みを整合させる
  • 計画から実施・報告までを一貫して管理する

ことが可能になります。

  • 評価制度の見直し
  • 賃金制度・等級制度の再構築
  • ハラスメント防止体制の整備

といったテーマも、経営者と人事・現場管理者を中心としたプロジェクト・チームで進めることで、現場の納得感を高めつつスムーズに導入できます。

本記事では、「プロジェクト・チーム」について、

  • プロジェクトと日常業務の違い
  • プロジェクト・チームの定義と特徴
  • 中小企業がチームを組むメリット
  • 機能しないときの典型的な課題
  • 成果を出すチームづくりとプロジェクト・マネジメントのポイント
  • 具体的な活用シーン

を解説しました。

いきなり大掛かりな仕組みを導入する必要はありません。
まずは、

  • 期間:3〜6か月程度
  • テーマ:会社にとって重要だが先送りされている課題
  • メンバー:3〜5名の小さなチーム

といった規模で「お試しのプロジェクト・チーム」を立ち上げ、成功体験を積み重ねていくことが現実的です。

  • 「自社でどんなテーマをプロジェクト化すべきか整理したい」
  • 「プロジェクト・チームの立ち上げ方や進め方を具体的に知りたい」
  • 「人事制度やDX、補助金活用など、専門家も交えてプロジェクトを進めたい」

といったお悩みがあれば、早い段階で専門家に相談することで、ムダな遠回りを減らすことができます。

自社に合ったプロジェクト・チームのつくり方や、実際の進め方についてのご相談も承っています。
「うちの会社の場合はどうすればよいか?」といった具体的なご相談があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。

[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]

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