「プロジェクト・チーム」とは?―専門性を束ねて短期間で成果を出す仕組みづくり
中小企業の経営者・個人事業主の方とお話ししていると、次のような悩みをよく耳にします。
- 新しい商品・サービスの企画が進まない
- DXや新システム導入が「やりっぱなし」で定着しない
- 補助金を活用したいが、日常業務に追われて計画づくりが後回しになる
- 「誰の仕事なのか」があいまいなまま、重要テーマが放置されている
これらの多くは、「通常業務の延長線上では解決しにくいテーマ」であり、本来は“プロジェクト”として扱うべき内容です。そして、そのプロジェクトを推進するための専門的な作業集団が「プロジェクト・チーム」です。
本記事では、中小企業経営者・個人事業主の方向けに、
- プロジェクト・チームの基本的な考え方
- 日常業務との違い
- 中小企業が導入するメリットと注意点
- 実務的な立ち上げ・運営のポイント
を分かりやすく解説します。
経営における管理活動の対象は、本来「日々繰り返される定常業務」です。
例えば、製造業であれば「毎日の生産」「出荷」や「在庫管理」、小売・サービス業であれば「接客・販売」「仕入」「請求・入金」などが該当します。これは、同じプロセスが長期にわたって繰り返される仕事です。
一方、プロジェクトとは、
- 一定期間内に完了させるべき「一回限り、または限定的な取り組み」であり
- 明確な目的・成果物(アウトプット)が定義され
- 期日(期限)が設定されているもの
を指します。
例としては、
- 特定製品の新規開発
- 新店舗・新拠点の立ち上げ
- 特定の土木工事・建築工事
- 新システム導入(勤怠システム、ECサイト構築など)
- 事業再構築や新事業の立ち上げ
などが代表例です。
プロジェクトは、その性質上「従来の固定的な組織」だけでは十分な成果が得られないことが少なくありません。
そこで、プロジェクトの特質に応じて、
- 営業
- 製造・技術
- 経理・財務
- 人事・総務
- 情報システム
- 外部の専門家(社労士、中小企業診断士、税理士など)
といった各専門分野からメンバーを選抜し、一時的な作業集団を編成します。これが「プロジェクト・チーム」です。
言い換えると、
プロジェクト・チームとは、特定のプロジェクトを一定期間内に完了させるために、専門家・有識者を横断的に集めた“期間限定のチーム”
と整理できます。
個々のプロジェクトを、それぞれ独立した単位として企画・実行・管理していく経営管理のやり方を「プロジェクト・マネジメント」と呼びます。
- プロジェクト・チーム:プロジェクトを動かす“人の集まり(組織)”
- プロジェクト・マネジメント:プロジェクトを計画・実行・管理する“仕組み・手法”
という関係を押さえておくと理解しやすくなります。
通常、「新しいことをやる」ときにありがちなのは、
- 社内の誰の仕事かはっきりしない
- 結局、社長やごく一部の人だけが抱え込む
- 会議はするが、決めても動かない
- 日常業務に押されて先送りされる
といった状況です。
一方、プロジェクト・チームとして正式に立ち上げると、
- プロジェクトの目的・ゴールが明文化される
- 担当メンバーが明確になる
- 期限とスケジュールが共有される
- 会議ではなく“実行の場”として機能しやすい
ため、スピードと実行力が格段に高まります。
プロジェクトには、複数部門の知識・判断が必要になることが多くあります。
例えば、「新商品開発プロジェクト」であれば、
- 営業:市場ニーズ、顧客の声、販売チャネル
- 製造・技術:製造方法、品質、コスト
- 経理:利益計画、投資回収シミュレーション
- 総務・人事:人員計画、労務リスク
など、多様な視点が求められます。
プロジェクト・チームでは、これらの専門性を“その場で持ち寄り、議論し、決めていく”ことができるため、現実的で実行可能性の高い計画をつくりやすくなります。
プロジェクト・チームへの参画は、社員にとっても重要な成長機会です。
- 通常業務では経験できないテーマに挑戦できる
- 他部門のメンバーと一緒に仕事をすることで視野が広がる
- プロジェクトの成功体験が自信につながる
結果として、
- 次世代リーダー候補の発掘・育成
- 部門間のコミュニケーション向上
- 組織全体の一体感の醸成
にも大きく寄与します。
特に中小企業では、「新しいことは全部社長が一人で考えて、一人で動く」という状態になりがちです。これはスピード感がある一方で、社長の時間とエネルギーの限界が早く訪れます。
プロジェクト・チームを活用することで、
- 社長は“方向性の提示・意思決定”に専念
- 実務の多くはプロジェクト・チームに委ねる
という役割分担が可能となり、経営に余裕が生まれます。
「プロジェクト・チームを作ってみたものの、思ったほど機能していない」というケースもあります。その多くは、次のようなつまずきに原因があります。
よくある問題は、
- 「とりあえずDXプロジェクト」「とりあえず新商品プロジェクト」と名付けただけで、具体的に何を達成するのか決まっていない
- 成果物(アウトプット)・期限・成功基準が共有されていない
という状態です。
- メンバーが「自分の仕事」と認識できず、優先度が上がらない
- 会議が「情報共有の場」で止まり、意思決定や行動に結びつかない
- 途中で何をしているのか分からなくなり、自然消滅する
プロジェクト・チームを立ち上げる際は、後述するように「目的・ゴールの言語化」が最重要ポイントになります。
- 何をどこまでチームの判断で決めてよいのか
- どこから先は社長・役員の決裁が必要なのか
が曖昧なまま進めると、
- 決めたことが後からひっくり返される
- 担当者の責任ばかり重く感じられ、主体性が失われる
- 「どうせ決めても変わる」と考え、議論が形骸化する
といった問題が起こります。
中小企業のメンバーは、プロジェクト専任ではなく「通常業務との兼任」であることがほとんどです。そのため、
- プロジェクトの会議が多すぎて、現場が回らなくなる
- 繁忙期になるとプロジェクトが完全に止まる
- 上司によっては「プロジェクトより自部署の仕事を優先しろ」と指示する
といった摩擦が生じます。
中小企業では、「フルタイムのプロジェクト専任者」を置くのは現実的でないことも多いため、
- プロジェクトの負荷を月○時間程度に抑える
- 繁忙期・閑散期を踏まえてスケジュールを組む
- 各メンバーの上司と事前に調整し、理解を得ておく
といった工夫が欠かせません。
最初に必ず押さえるべきは、「なぜこのプロジェクトをやるのか」「いつまでに、何を達成するのか」を言語化することです。
- 会社の中期目標・経営課題とつながっているか
- 数字や期限で表現できているか(売上・利益・件数・日付など)
- メンバーが聞いて「なるほど、やる価値がある」と納得できるか
例)
- 目的:既存顧客への単価アップを図り、収益性を高めるため
- ゴール:半年以内に新セット商品の販売を開始し、1年後に月商+100万円を達成する
次に、「どんな知識・経験が必要か」から逆算してメンバーを選びます。
- 営業(顧客ニーズ、販売チャネル)
- 製造・技術(品質、原価、製造方法)
- 経理・財務(採算管理、投資回収)
- 人事・総務(人員・労務リスク)
- システム担当(IT活用)
- 外部専門家(補助金、法務、労務など)
といった候補の中から、「このプロジェクトにとってキーパーソンとなる人」を選抜します。
- 「役職」だけでなく、「現場を一番よく知っている人」を入れる
- 将来の幹部候補を意図的にメンバーに入れ、育成の場とする
- 外部専門家を“チームの一員”として位置づけることで、社内の負担を減らす
など、中小企業ならではの柔軟な人選が可能です。
プロジェクト・チームには必ず「リーダー(プロジェクトマネージャー)」が必要です。
リーダーの主な役割は、
- 目的・ゴールの共有と維持
- スケジュール管理・優先順位の整理
- 社長・経営層との橋渡し(報告・相談・決裁)
- メンバーの役割分担とフォロー
- 会議のファシリテーション
などです。
- 調整力(部門間・社長との調整)
- コミュニケーション力(情報共有と巻き込み)
- 最後までやり抜く粘り強さ
必ずしも「一番偉い人」「一番の専門家」である必要はなく、「人や仕事を動かすことができる人」が適任です。
プロジェクト・チームを運営するうえで、最低限次のルールを決めておくと、ぐっと回りやすくなります。
- 会議の頻度
― 例:月2回、1回60分まで など - 報告の形式
― 例:A4一枚の簡易報告書、チャットツール、共有フォルダなど - 決裁のフロー
― 例:○万円までの支出はリーダーの裁量、超える場合は社長決裁 など - ドキュメントの保存場所
― 例:共有クラウドの特定フォルダに集約し、「どこを見れば分かるか」を統一
ルールはシンプルで構いません。「全員が迷わず動けるレベル」で整えることが重要です。
プロジェクト・チームを機能させるには、マネジメントの「型」をシンプルに取り入れることが有効です。
- プロジェクト期間の全体像をざっくりと描く
- 途中の「チェックポイント(マイルストーン)」を設定する
例)
- 1か月目:現状分析・アイデア出し
- 2か月目:試作品・試行の実施
- 3か月目:正式版の決定・準備
- 4か月目:本格運用開始
といった形で、「いつ何を終わらせるか」を見える化します。
いきなり「新商品開発」といっても、具体的に何をすればよいか分かりません。そこで、
- 顧客ニーズの調査
- コンセプト設計
- 試作・テスト
- 原価試算
- 販促ツール作成
- 販売チャネル整備
など、細かなタスクに分解していきます。これを「タスク分解(WBS:Work Breakdown Structure)」と呼びます。
- 「誰が」「いつまでに」「何をするか」が明確になるレベルまで分解する
- タスクごとに優先順位と締切を決める
- 進捗管理はシンプルな一覧表で十分(Excelやクラウドツールなど)
プロジェクトには必ず、
- 人員不足
- 繁忙期とのバッティング
- 予算オーバー
- 社内の抵抗感・反発
などのリスクがつきものです。
これらを「起こってから考える」のではなく、事前に洗い出しておき、
- 事前に対策しておく
- 起こったときの代替案を用意しておく
ことで、致命的なトラブルを回避しやすくなります。
- 営業:顧客の声・ニーズの収集
- 製造:技術面・原価の検討
- 経理:採算性のチェック
- 総務:契約条件やリスクの確認
といったメンバーでチームを組み、
「半年後の展示会までに、新商品○点をラインナップする」など、具体的なゴールを設定して進めます。
- 勤怠・給与システムの入れ替え
- ECサイトや予約システムの導入
- 顧客管理(CRM)の整備
などは、現場の運用を理解したメンバーが中心となってプロジェクト・チームを組むことで、「入れただけで使われないシステム」になるリスクを抑えられます。
- 経営者
- 経理担当
- 現場責任者
- 外部専門家(中小企業診断士・社労士など)
を含むプロジェクト・チームを組むことで、
- 申請書の内容と実際の現場の取り組みを整合させる
- 計画から実施・報告までを一貫して管理する
ことが可能になります。
- 評価制度の見直し
- 賃金制度・等級制度の再構築
- ハラスメント防止体制の整備
といったテーマも、経営者と人事・現場管理者を中心としたプロジェクト・チームで進めることで、現場の納得感を高めつつスムーズに導入できます。
本記事では、「プロジェクト・チーム」について、
- プロジェクトと日常業務の違い
- プロジェクト・チームの定義と特徴
- 中小企業がチームを組むメリット
- 機能しないときの典型的な課題
- 成果を出すチームづくりとプロジェクト・マネジメントのポイント
- 具体的な活用シーン
を解説しました。
いきなり大掛かりな仕組みを導入する必要はありません。
まずは、
- 期間:3〜6か月程度
- テーマ:会社にとって重要だが先送りされている課題
- メンバー:3〜5名の小さなチーム
といった規模で「お試しのプロジェクト・チーム」を立ち上げ、成功体験を積み重ねていくことが現実的です。
- 「自社でどんなテーマをプロジェクト化すべきか整理したい」
- 「プロジェクト・チームの立ち上げ方や進め方を具体的に知りたい」
- 「人事制度やDX、補助金活用など、専門家も交えてプロジェクトを進めたい」
といったお悩みがあれば、早い段階で専門家に相談することで、ムダな遠回りを減らすことができます。
自社に合ったプロジェクト・チームのつくり方や、実際の進め方についてのご相談も承っています。
「うちの会社の場合はどうすればよいか?」といった具体的なご相談があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。
[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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