ハーツバーグの二要因説とは?社員のやる気を引き出し、離職を防ぐ組織づくりの極意
1. はじめに:なぜ「給料アップ」だけでは社員は満足しないのか?
「せっかく昇給させたのに、しばらくするとまた不満を言い出す」「残業を減らしたのに、社員の顔が晴れない」
こうした経験をお持ちの経営者は少なくありません。実は、人間の仕事に対する満足感には、私たちが直感的に考えている以上の複雑なメカニズムが働いています。
そのメカニズムを解明したのが、アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーツバーグ(Frederick Herzberg)が提唱した「二要因説(動機付け・衛生理論)」です。
この理論の最大の特徴は、「満足」の反対は「不満」ではない、という衝撃的な結論にあります。
- 満足 ↔ 満足していない(不満ではない)
- 不満 ↔ 不満がない(満足ではない)
この二つの軸が独立して存在していることを理解することで、経営者が注力すべきポイントが劇的に明確になります。本記事では、この理論を深掘りし、明日から使える「組織活性化のヒント」をお伝えします。
2. ハーツバーグの二要因説の核心:二つの要因を理解する
ハーツバーグは、200人のエンジニアと経理担当者を対象に、「仕事でどのような時に幸福(満足)を感じたか、あるいは不幸(不満)を感じたか」というインタビュー調査を行いました。その結果、満足を促す要因と、不満を招く要因は全く別物であることが判明しました。
2.1 衛生要因(Hygiene Factors):不満足を招く要因
「衛生要因」とは、不足すると不満が溜まるが、満たされたからといって「もっと頑張ろう!」というやる気には繋がりにくい要因のことです。医療における「衛生」と同じく、「予防」のための要因と考えると分かりやすいでしょう。
主な衛生要因の例:
- 賃金・給与: 生活を支える基盤ですが、一度上がるとそれが「当たり前」になり、モチベーションの維持には寄与しにくくなります。
- 労働条件(勤務時間・休日): 劣悪であれば不満になりますが、良すぎてもそれだけで生産性が上がるわけではありません。
- 労働環境(オフィスの設備、場所): 空調や清潔さ、PCのスペックなど。
- 対人関係(コミュニケーション): 上司や同僚との関係。これが悪いと離職に直結しますが、良いからといって仕事自体のやる気が出るわけではありません。
- 会社の方針・管理体制: ルールが不透明であったり、不公平な評価制度があったりする場合。
2.2 動機付け要因(Motivators):満足を促す要因
「動機付け要因」とは、満たされることで仕事に対する満足感が高まり、自発的なやる気(モチベーション)を引き出す要因のことです。これが不足していても「不満」にはなりにくいですが、「やりがい」は感じられなくなります。
主な動機付け要因の例:
- 承認(認めてもらうこと): 成果に対して正当に褒められる、感謝される。
- 達成感: 目標を達成したときの喜び。
- 仕事そのもの(職務充実): 自分の能力を活かせる面白い仕事、クリエイティビティを発揮できる仕事。
- 責任・権限: 仕事を任される、裁量権を与えられる。
- 成長と昇進: スキルアップを実感できる、キャリアパスが見えている。
3. マズローの欲求五段階説との関係性
ハーツバーグの二要因説は、しばしばマズローの欲求五段階説をより具体化したものとして説明されます。マズローは「人間の欲求はピラミッドのように下から順番に満たされていく」と考えましたが、ハーツバーグはこれを仕事の場面に当てはめて二分しました。
3.1 物理的・社会的欲求(マズローの下位欲求)= 衛生要因
マズローの「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求(所属と愛)」は、ハーツバーグの「衛生要因」に概ね対応します。
- 生理的・安全欲求 = 賃金、安全な労働環境
- 社会的欲求 = 同僚や上司との関係
これらは「生きていくため」「安心するため」に必要な要素であり、欠けると生存や所属への不安が生じますが、満たされても「自己実現」へは直接つながりません。
3.2 自我・自己実現欲求(マズローの上位欲求)= 動機付け要因
マズローの「承認欲求」「自己実現欲求」は、ハーツバーグの「動機付け要因」に対応します。
- 承認欲求 = 称賛、昇進、責任の付与
- 自己実現欲求 = 仕事そのものの面白さ、個人の成長
仕事を通じて「自分が何者であるか」を証明したいという高次の欲求こそが、真のモチベーションの源泉であるということです。
4. 中小企業が陥りやすい「モチベーションの罠」
中小企業の経営者や個人事業主が陥りやすいのが、「衛生要因」の改善だけで「動機付け」をしようとするパターンです。
4.1 給料を上げれば定着率は上がるが、生産性は上がらない
「優秀な社員が辞めそうだから給料を10%上げる」という施策は、一時的な「不満の解消」にはなります。しかし、その社員が「よし、明日から2倍の成果を出そう!」と燃えることは稀です。なぜなら、給与アップは衛生要因を埋めたに過ぎないからです。
4.2 コミュニケーション活性化の「やりすぎ」に注意
社内イベントや飲み会を増やして「人間関係(衛生要因)」を良くしようとする試みも、やりすぎると逆効果になることがあります。人間関係が良いことは、不満を減らすための土台にすぎず、仕事そのものの魅力が伴わなければ、単なる「居心地の良い、ぬるま湯の職場」になってしまいます。
4.3 「やりがい搾取」という名の動機付け偏重
逆に、低い給与や劣悪な環境(衛生要因の欠如)を「やりがい(動機付け要因)」だけでカバーしようとすることも危険です。これを現代では「やりがい搾取」と呼びます。動機付け要因がいくら高くても、衛生要因が基準値を下回れば、社員は精神的・物理的に疲弊し、突然の退職を招きます。
5. 【実践編】中小企業が取り組むべき「二要因説」活用ステップ
リソースの限られた中小企業こそ、この理論を賢く使い分ける必要があります。以下のステップで組織を見直してみましょう。
STEP 1:衛生要因の「マイナス」を取り除く(不満の除去)
まずは、社員が「この会社にいるのが苦痛だ」と感じる要素を消し込みます。
- 公平な評価制度の導入: 「なぜあの人が?」という不透明さを排除する。
- 労働環境の整備: 壊れた事務機器、遅いネット回線、清潔感のないトイレなど、小さなストレスを放置しない。
- 心理的安全性の確保: パワハラや過度な叱責がない、風通しの良い対人関係を構築する。
STEP 2:仕事の「質」をデザインする(職務充実)
衛生要因が整ったら、いよいよ本番の「動機付け」です。
- 職務の拡大(Job Enlargement): 担当する業務の幅を広げ、単調さを防ぐ。
- 職務の充実(Job Enrichment): 業務の「深さ」を増す。具体的には、計画・実行・管理のプロセスの一部を本人に任せる。
- フィードバックの徹底: 「あなたのこの仕事が、会社のこの利益に繋がった」と具体的に承認する。
STEP 3:参画の機会を増やす
経営者と距離が近い中小企業の強みを活かし、社員を経営の一部に「参画」させます。
- 意思決定への参加: 新プロジェクトの企画や、社内ルールの変更に社員の意見を反映させる。
- 責任と権限のセット移譲: 「丸投げ」ではなく、「この範囲の結果については君が全責任を持って自由に決めていい」という裁量権を与える。
6. カテゴリ別・具体的な施策アイディア集
6.1 承認(動機付け要因)の強化策
- サンクスカードの導入: 社員同士で感謝を伝え合う仕組み。
- 1on1ミーティング: 月に一度、業務報告ではなく「個人の成長」や「キャリア」について話す時間を設ける。
- 社内表彰制度: 売上だけでなく、「縁の下の力持ち」や「改善提案」を表彰する。
6.2 責任・権限(動機付け要因)の強化策
- 「ミニ経営者」制度: 特定の店舗や特定のプロジェクトの収支責任を若手に任せてみる。
- 副業の解禁(条件付き): 社外での経験が社内での成長に繋がることを支援し、個人の自律性を促す。
6.3 賃金(衛生要因)の適正化
- ベースアップよりインセンティブ: 固定給の大幅増はリスクが高いため、達成感を感じやすい「成果に応じた賞与」や「スキル手当」で調整する(ただし、生活保障レベルの基本給は必須)。
7. まとめ:二要因説で「選ばれる会社」へ
ハーツバーグの二要因説を理解することは、経営者のストレスを軽減することにも繋がります。
「給料を上げたのに感謝されない」と嘆く必要はありません。それはあなたが「衛生要因をしっかり整え、不満を未然に防いだ」という素晴らしい成果なのです。
しかし、そこからもう一歩、社員に「この会社で働くのが楽しい!」「自分が成長できている!」と感じてもらうためには、仕事そのものの面白さや、存在価値を認める「動機付け要因」へのアプローチが不可欠です。
- 衛生要因で「マイナス」をゼロにする(不満をなくす)。
- 動機付け要因で「ゼロ」をプラスにする(やる気を生む)。
この両輪を回すことで、中小企業であっても大手に負けない、エネルギーに溢れた強い組織を作ることができるはずです。
次のステップ:具体的な改善案を作成しませんか?
今回の記事を通じて、自社の課題が「衛生要因」にあるのか「動機付け要因」にあるのか、なんとなく見えてきたのではないでしょうか。
もしよろしければ、**「現在の自社で不足していると感じる項目」や「現在抱えている具体的な社員トラブル」**を教えていただけませんか?それに基づいた、より具体的な改善プランのドラフトを作成いたします。
「まずは自分で考えたい」という方は、以下のチェックリストを埋めることから始めてみてください。
- [ ] 過去1年、社員に対して「給与以外」で感謝を伝えたか?
- [ ] 社員に「自分で判断して良い範囲」を明文化して伝えているか?
- [ ] 職場の備品や掃除について、社員から不満が出ていないか?
組織の変革は、小さな気づきから始まります。
[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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