従業員が動かない本当の理由とは?ポーターとローラーの期待理論で解き明かす「成果が出る」組織の作り方
はじめに
「給料を上げたのに、なぜか従業員のやる気が上がらない」
「頑張れば報われると言い聞かせているのに、行動に移さない社員が多い」
多くの中小企業経営者や個人事業主の方が、こうした悩みを抱えています。現場のリーダーとして、あるいは経営者として、従業員のモチベーション管理は永遠の課題と言えるでしょう。実は、従業員が「やる気」を出し、実際の「行動」に移し、最終的に「満足」するためには、単に報酬を与えるだけでは不十分なケースが多いのです。
そこで役立つのが、L.W.ポーターとE.E.ローラーによって提唱された「期待理論(Expectancy Theory)」のモデルです。この理論は、精神論や根性論ではなく、「人間は期待利益を最大化しようとする合理的な存在である」という前提に基づき、モチベーションのメカニズムを論理的に解明しました。
本記事では、この「ポーターとローラーの期待理論」をわかりやすく解説し、中小企業の現場で今日から使えるマネジメント手法として落とし込む方法をご紹介します。従業員と会社の目的を一体化させ、組織全体のパフォーマンスを最大化するためのヒントを持ち帰ってください。
第1章:ポーターとローラーの期待理論とは何か?
1-1. 理論の背景と基本的考え方
1968年、L.W.ポーター(Lyman W. Porter)とE.E.ローラー(Edward E. Lawler III)は、V.H.ブルームの期待理論を発展させ、モチベーションと職務遂行(パフォーマンス)、そして満足感の関係を一つの包括的なモデルとして提示しました。
彼らの理論の核心は以下の点にあります。
モチベーションを高めるには、仕事の遂行に伴う報酬、企業の目的や従業員自身の目的を一体化させることが有効である
従来の理論(マグレガーのY理論など)が「人間は本来、自己実現欲求を持つ」という側面を強調したのに対し、この期待理論はよりドライで合理的です。つまり、**「人間は『この努力が自分にとって価値ある報酬につながる』という確信(期待)と、その報酬に対する『主観的な魅力(価値)』の掛け合わせで行動する」**と考えます。
1-2. モチベーションの方程式
この理論では、動機づけ(モチベーション)の強さは、以下の2つの要因の積(掛け算)で決まるとされています。
- 期待(Expectancy): 「努力すれば、特定の成果や報酬が得られるだろう」という確率的な見込み。
- 主観的価値(Valence): その報酬が、その個人にとってどれくらい魅力的か。
数式的に表現すれば、**「動機づけ = 期待 × 誘意性(主観的価値)」**となります。
ここで重要なのは「掛け算」であるという点です。どちらか一方がゼロであれば、モチベーションはゼロになってしまいます。どんなに魅力的なボーナス(高い価値)があっても、「どうせ自分には達成できない(低い期待)」と思われれば、社員は動きません。
第2章:プロセスで理解する「努力」から「満足」への道のり
ポーターとローラーのモデルが優れているのは、単に「やる気」だけでなく、それがどう「業績」に結びつき、最終的に「満足」に至るかというプロセスを示した点にあります。このプロセスには主要な4つのステップがあります。
2-1. 努力(Effort)から業績(Performance)へ
まず、本人の「努力」がそのまま「業績」に直結するわけではありません。ここで2つのフィルターが掛かります。
- 能力・特性: その業務を遂行するためのスキルや知識を持っているか。
- 役割認知: 自分の仕事の方向性や期待されている役割を正しく理解しているか。
いくらやる気があっても、スキルが不足していたり、努力の方向性が間違っていたり(役割認知のズレ)すれば、高い業績にはつながりません。
2-2. 業績(Performance)から報酬(Reward)へ
高い業績を上げた後、従業員は何らかの報酬を受け取ります。ここで報酬は大きく2つに分類されます。
- 外発的報酬(Extrinsic Rewards): 給与、昇進、賞与、表彰など、会社から与えられるもの。
- 内発的報酬(Intrinsic Rewards): 達成感、成長実感、仕事そのものの面白さなど、自身の内面から湧き上がるもの。
2-3. 報酬(Reward)から満足(Satisfaction)へ
ここがこの理論の最も興味深い点です。「報酬をもらえば満足する」とは限りません。ここで「衡平性(公平感)の認知」というフィルターが働きます。
- 「あんなに頑張ったのに、これだけ?」
- 「サボっていたあの人と同じボーナス額なのはおかしい」
従業員は、自分が投入した努力や成果に対し、得られた報酬が「妥当(フェア)である」と感じた時初めて、「満足」を得ます。そして、この「満足」が次の仕事への「期待」を高め、再びモチベーションのサイクルが回り始めるのです。
第3章:中小企業経営者が陥りがちな「モチベーション管理」の誤解
この理論を紐解くと、多くの中小企業で行われている人事施策がなぜ機能しないのか、その原因が見えてきます。
誤解①:「給料さえ上げれば頑張るはずだ」
【理論による分析】
給料(外発的報酬)の価値は人によって異なります。また、給料アップの基準が曖昧であれば、「努力すれば報酬が得られる」という「期待」とのリンクが切れてしまいます。さらに、内発的報酬(やりがい)が欠けている場合、金銭的なインセンティブだけでは長続きしません。
誤解②:「背中を見て覚えろ」
【理論による分析】
「役割認知」の欠如です。何をすれば評価されるのか、どのような行動が「成果」として定義されているのかが不明確だと、従業員の努力は空回りし、業績に結びつきません。結果として報酬も得られず、モチベーションが低下します。
誤解③:「全員一律の目標設定」
【理論による分析】
「期待」の醸成に失敗します。能力が高い社員には簡単すぎてつまらなく、経験が浅い社員には高すぎて「どうせ無理だ」と諦めさせてしまいます。個人の能力に合わせた目標設定(ストレッチゴール)がなければ、期待値は最大化されません。
第4章:実践!ポーターとローラーの期待理論を活用したマネジメント術
では、具体的に明日からどのようなアクションを起こせばよいのでしょうか。経営者・リーダーが取り組むべき5つのステップを解説します。
ステップ1:従業員にとっての「価値ある報酬」を知る
「主観的価値」を高めるための施策です。
従業員一人ひとりが何に価値を感じるかは異なります。
- お金が欲しい人
- 休みが欲しい人
- 責任あるポストが欲しい人
- スキルアップの機会が欲しい人
- 「ありがとう」という承認が欲しい人
1on1ミーティングなどを通じて、彼らが求めている「報酬(インセンティブ)」のリサーチを行ってください。内発的報酬(仕事の面白さ)を感じられるような業務配置も重要です。
ステップ2:「努力=成果」のルートを整備する(教育と役割定義)
努力が成果に結びつくよう支援します。
- スキル不足への対処: 研修やOJTを行い、業務遂行能力を高める。
- 役割認知の修正: 「あなたのミッションはこれだ」と明確に伝え、間違った方向への努力を防ぐ。
「やればできる」という自己効力感を持たせることが、最初の「期待」を高める鍵です。
ステップ3:成果と報酬のリンクを明確にする(人事評価制度)
「成果を出せば、必ず約束された報酬が手に入る」という確信(道具性)を持たせます。
- 評価基準をブラックボックスにしない。
- 「何をどれくらい売れば、ボーナスがいくらになるか」をガラス張りにする。
- 定性的な努力(チームへの貢献など)もどう評価されるか明文化する。
ステップ4:公平感のある配分を行う
報酬を受け取った後の「不公平感」を排除します。
期待理論において、満足感は「自分が得た報酬」と「自分が考える妥当な報酬水準」との比較で決まります。
- なぜその評価になったのか、フィードバックを丁寧に行う。
- 評価の透明性を高め、えこひいきがないことを示す。
ステップ5:フィードバックループを回す
一度の成功体験が、次のモチベーションの源泉になります。
「今回のプロジェクトで成果を出した(業績)→ 昇給したし、実力もついた(報酬)→ 会社は正当に評価してくれた(満足)」
このサイクルを経験した従業員は、次も「頑張ればいいことがある(期待)」と信じて行動するようになります。
第5章:中小企業こそ「期待理論」が必要な理由
大企業のように潤沢な原資がない中小企業こそ、この理論は強力な武器になります。なぜなら、ポーターとローラーのモデルは「金銭以外の報酬(内発的報酬)」の重要性も説いているからです。
社長との距離が近い中小企業では、「自分の仕事が会社の成長に直結している」という実感(役割認知)や、経営者からの直接的な感謝(精神的報酬)を与えやすい環境にあります。
- ビジョンの共有: 会社の目的と個人の目的をリンクさせる。
- 柔軟な働き方: 個人の価値観に合わせた報酬形態(時間、場所など)を提供する。
これらを駆使することで、高額な給与競争に巻き込まれることなく、高いモチベーションを持つ組織を作ることが可能です。
まとめ
ポーターとローラーの期待理論は、従業員を「感情だけで動く生き物」ではなく、「合理的に未来を予測して行動するパートナー」として捉える視点を与えてくれます。
- 期待(Expectancy): 「頑張ればできる」と思わせるサポートと環境作り。
- 道具性(Instrumentality): 「成果が出れば報われる」という信憑性のある約束。
- 主観的価値(Valence): その人にとって本当に欲しいものを提供する柔軟性。
この3つの要素を掛け合わせ、さらに「能力」「役割認知」「公平性」というフィルターを最適化することで、組織の生産性は劇的に向上します。
「笛吹けど踊らず」の組織から脱却し、社員が自律的に目標に向かって走る組織へと変革していきましょう。
自社の評価制度・賃金制度に不安を感じたら
「理論はわかったけれど、具体的に自社の人事評価シートをどう変えればいいのか?」
「成果と報酬を連動させる賃金テーブルの作り方がわからない」
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そうお考えの経営者様は、ぜひ一度専門家にご相談ください。
人事評価制度や賃金規定は、作っただけでは機能しません。貴社の業種、規模、そして経営者の想いに合わせた「運用できる仕組み」が必要です。
社会保険労務士などの労務のプロフェッショナルは、法律を遵守しながら、従業員のモチベーションを最大化する制度設計のパートナーです。
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[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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