toggle
【徳島を拠点に全国対応】企業の経営課題を共に解決すべく専門家(社会保険労務士/中小企業診断士)として活動しています。
2026-03-03

モデル賃金とは?作成のメリットから活用法・調べ方まで徹底解説

中小企業経営者や個人事業主の皆様、日々の企業経営や組織作りにおいて、「社員の給与をどのように設定すべきか」と悩んだことはありませんか?

近年、深刻な人手不足や物価高騰に伴う賃上げの社会的要請が高まる中、自社の賃金水準が世間一般と比べて妥当なのか、求職者にとって魅力的なのかを把握することは、企業の存続と成長において不可欠な課題となっています。属人的な給与決定や、明確な基準のない昇給は、従業員の不満を招き、離職につながるリスクを孕んでいます。

そこで重要になるのが「モデル賃金」という考え方です。

この記事では、モデル賃金の基本概念から、「理論モデル」と「実在者モデル」という2つの種類、中小企業がモデル賃金を導入するメリット、公的データの調べ方、そして自社での作成手順までを徹底的に解説します。自社の賃金制度を見直し、従業員がモチベーション高く働ける強い組織を作るための参考として、ぜひ最後までお読みください。

モデル賃金とは?基礎知識と定義

まずは、モデル賃金の基本的な意味と、その算出方法について正しく理解しておきましょう。

モデル賃金の定義

モデル賃金とは、**「学校卒業直後に企業に入社し、平均的・標準的に昇進し続けた場合の給与額」**を示す指標です。

ここでいう給与には、基本給と諸手当が含まれますが、所定労働時間外の労働に対して支払われる給与(残業代や休日出勤手当など)は除外されるのが一般的です。つまり、所定の労働時間を働いた際に、安定して得られる基本の月収額を表しています。

基準となる条件(学歴、年齢、勤続年数など)

モデル賃金は、漠然とした平均値ではありません。特定の条件を指定して、その条件に合致する「標準的な従業員像(モデル)」を設定した上で算出されます。

具体的には、以下のような項目を設定します。

  • 最終学歴(例:大学卒、高等学校卒など)
  • 性別(※近年は性別を問わないケースも増えていますが、統計上は分かれていることが多いです)
  • 年齢(例:22歳、30歳、40歳など)
  • 勤続年数(例:新卒入社、勤続10年、勤続20年など)
  • 家族構成・扶養家族数(例:独身、配偶者あり・子ども2人など)

たとえば、「大卒・35歳・勤続13年・配偶者と子ども1人」といった具体的なペルソナを設定し、その人物が自社で標準的な評価を受けている場合の月収額を弾き出したものがモデル賃金です。

モデル賃金の2つの種類:理論モデルと実在者モデル

モデル賃金には、大きく分けて「理論モデル」と「実在者モデル」の2種類が存在します。それぞれの性質を理解し、目的に応じて使い分けることが重要です。

1. 理論モデルとは

理論モデルとは、企業の就業規則や賃金規程、内規などに基づき、「仮にこの条件の従業員がいて、平均的に昇進・昇給したとすれば、いくらになるか」という想定で計算された賃金です。

  • メリット: 規則に基づいた計算であるため、会社の制度が意図する「あるべき賃金カーブ」を明確に確認できます。制度設計のシミュレーションに最適です。
  • デメリット: あくまで理論値であるため、実際の従業員の給与実態と乖離が生じている(誰もその金額をもらっていない)ケースがあります。

2. 実在者モデルとは

実在者モデルとは、設定したモデル条件に合致する「実在の従業員」の現実の給与額をベースにする方法です。

  • 条件に完全に一致する従業員がいる場合: その従業員の実際の給与額をそのまま採用します。
  • 条件に一致する従業員がいない場合: 近い条件(年齢や勤続年数が近いなど)の従業員の給与額から類推し、調整を加えた額をモデル賃金とします。
  • メリット: 実際に支払われている金額をベースにするため、実態に即しており、説得力があります。
  • デメリット: 該当する従業員の個人的な評価や事情(特別な手当など)が反映されやすく、純粋な制度の評価が難しくなる場合があります。

モデル賃金の特徴と扱う上での注意点

モデル賃金を他社のデータと比較したり、自社の指標として活用したりする際には、いくつか気をつけるべき特徴があります。

現実の平均給与より高額に出る傾向がある理由

モデル賃金は、実際の全従業員の平均給与額よりも高めに算出される傾向が強いという特徴があります。その主な理由は以下の通りです。

  1. 中途採用者や留年・浪人経験者が含まれないモデル賃金は「学校卒業直後に入社したプロパー社員」を前提としています。途中で入社し、勤続年数が短い中途採用者や、同年齢でも経験年数が少ない従業員は計算から除外されるため、金額が引き上げられます。
  2. 「標準的・順調な昇進」を前提としている降格や長期間の休職、評価の低迷などがなく、滞りなく昇進・昇格したエリート寄りの「標準」を想定しているためです。
  3. 本社レベルでの推定複数の拠点を持つ企業の場合、比較的給与水準の高い本社や都市部の基準で推定されることが多いため、全社平均よりも高くなります。

このため、公的なモデル賃金調査のデータを見て「自社は世間よりこんなに低いのか」と悲観する前に、上記の前提条件を理解しておくことが重要です。モデル賃金はあくまで「理想的な賃金カーブ」を示すものであり、「実態の平均値」とは異なる性質を持っています。

モデル賃金と平均賃金の違い

ここで、よく混同されがちな「モデル賃金」と「平均賃金(平均給与)」の違いを整理しておきましょう。

  • 平均賃金: 企業に在籍するすべての従業員(あるいは特定の年齢層)の給与を単純に合計し、人数で割ったもの。中途採用者、成績優秀者、成績不振者など、すべての要素が混ざり合った「結果」としての数値です。
  • モデル賃金: 前述の通り、特定の条件(新卒入社、標準評価など)を設定して抽出または計算した「基準」としての数値です。

自社の給与水準が世間相場と合っているかを確認する際、平均賃金だけを比較すると、従業員の年齢構成や勤続年数の偏り(若手が多い、中途が多いなど)によって正しい判断ができません。

「30歳時点での給与の競争力」を正確に測るためには、同条件で比較できるモデル賃金を用いるのが効果的です。

中小企業経営者がモデル賃金を作成・活用するメリット

大企業だけでなく、中小企業や個人事業主にとっても、自社のモデル賃金を明確にすることには非常に大きなメリットがあります。

1. 採用活動における競争力の強化

少子高齢化が進む中、中小企業の採用活動は困難を極めています。求職者は必ず、同業他社や同規模の企業の給与水準を比較しています。

自社のモデル賃金を作成し、世間相場と照らし合わせることで、「自社の給与は市場で戦える水準なのか」を客観的に把握できます。もし相場より低い場合は、手当の拡充や基本給のベースアップなど、採用競争力を高めるための対策を打つことができます。

求職者へのアピールポイントとして

採用面接や求人票において、「30歳でモデル月収〇〇万円」と具体的な将来の給与イメージを提示することは、求職者の不安を払拭し、入社意欲を高める強力な武器になります。単なる「平均給与」よりも、自分自身の将来像と重ね合わせやすいからです。

2. 従業員のモチベーション向上と定着率アップ

「この会社でこのまま働き続ければ、将来どれくらいの給料がもらえるのか?」——この疑問に対する答えが不透明な職場では、従業員は将来に不安を感じ、離職を考え始めます。

キャリアパスと賃金カーブの明確化

モデル賃金を示すことは、会社から従業員への「期待する成長のロードマップ」の提示でもあります。「5年後に主任になればこれくらい、10年後に課長になればこれくらい」というモデル賃金が示されていれば、従業員は自分の将来設計(結婚、出産、住宅購入など)を描きやすくなり、結果として会社への帰属意識と定着率が高まります。

3. 人事評価制度・賃金テーブルの土台作り

「社長のどんぶり勘定」や「毎年の気分」で昇給額を決めていては、不公平感が蔓延します。

モデル賃金は、客観的で納得感のある賃金制度(賃金テーブル)を構築するための背骨となります。「35歳・標準評価」の目標値(モデル賃金)を起点として、そこから評価が良ければプラス、悪ければマイナスといった形で、論理的に給与制度を設計することが可能になります。

モデル賃金の調べ方・参考になる公的データ

自社のモデル賃金を設計するためには、まず「世間の相場」を知る必要があります。モデル賃金は給与水準や昇給度の企業間比較を行うのに非常に有用です。

以下に、参考になる代表的な公的調査を紹介します。

1. 中央労働委員会事務局「賃金事情調査」

1952年(昭和27年)以降、毎年実施されている非常に信頼性の高い調査です。

この調査は、中央労働委員会の調整対象となる可能性を有する大企業(資本金5億円以上、労働者1,000人以上)を中心に行われています。そのため、日本トップクラスの企業のモデル賃金水準を知るための指標となります。中小企業がそのまま同じ水準にする必要はありませんが、「最高水準のベンチマーク」として把握しておく意義は大きいです。

2. 東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」

こちらは、都内の中小企業(従業員10人〜299人)を対象とした調査で、中小企業経営者にとって最も実態に近く、参考にしやすいデータです。

学歴別、年齢別のモデル賃金だけでなく、初任給、賞与、退職金など、中小企業の人事労務に関する幅広いデータが網羅されています。東京都のデータですが、全国の中小企業にとっても十分な参考指標となります。

3. 各都道府県や商工会議所の調査データ

各都道府県の労働局や、地域の商工会議所、経営者協会などが、独自の地域版賃金事情調査を行っている場合があります。地方の中小企業・個人事業主にとっては、その地域の物価水準や労働市場の実態を反映したローカルなデータが最も役立つケースが多いため、管轄の商工会議所などのホームページを確認してみることをお勧めします。

自社のモデル賃金を作成する4つのステップ

世間相場を把握したら、次はいよいよ自社のモデル賃金を作成します。ここでは、中小企業が取り組むための基本的な手順を解説します。

ステップ1:現状の賃金実態の把握

まずは、現在自社にいる従業員全員の給与データを洗い出します。年齢、学歴、勤続年数、役職、現在の基本給、各種手当の金額を一覧表(Excelなど)にまとめ、現状の「実在者モデル」がどのような状態になっているか、年齢層による偏りや不自然な逆転現象(後輩のほうが給与が高いなど)が起きていないかを分析します。

ステップ2:基準となるモデル従業員の設定

自社の標準的なキャリアパスを想定し、キーとなる年齢・役職のモデル(ペルソナ)を設定します。

例えば、以下のようなポイント(マイルストーン)を設定します。

  • 22歳:大卒新入社員(平社員)
  • 30歳:中堅社員(チーフ)
  • 35歳:中核社員(係長クラス、配偶者あり・子1人)
  • 45歳:管理職(課長クラス)

ステップ3:世間相場(公的データ)との比較・調整

ステップ2で設定したポイントにおける自社の現状の給与水準と、前述した「中小企業の賃金事情」などの公的データ(世間相場)を比較します。

もし世間相場より著しく低い年代があれば、そこが自社の「弱点(離職リスクが高いポイント)」です。企業の支払い能力(労働分配率など)を考慮しつつ、どの年齢層に手厚く報いるべきか、現実的で競争力のある「理論モデル」の金額を策定します。

ステップ4:就業規則や賃金規程への落とし込み

策定したモデル賃金を実現するためには、それを裏付ける制度が必要です。

年齢給、職能給、役割給などの基本給の構成割合を見直し、設定したモデル賃金通りの給与カーブが描けるように賃金テーブル(号俸表など)を作成・修正します。その後、就業規則や賃金規程を改定し、従業員へ周知します。

モデル賃金運用におけるよくある落とし穴

モデル賃金を作成・運用するにあたり、経営者が陥りがちな失敗例についても触れておきます。

1. 作成して満足してしまう(形骸化)

モデル賃金を作ったものの、実際の給与決定は今まで通り「社長の感覚」で行われてしまっては意味がありません。モデル賃金はあくまで基準であり、それを運用する人事評価制度とセットで機能させる必要があります。

2. 実態とかけ離れすぎている

「採用のために見栄えを良くしたい」という理由で、実際の業績や昇進スピードの現実を無視した、高すぎる理論モデル賃金を設定してしまうケースです。入社後に「話が違う」と不満を持たれ、早期離職につながる深刻なリスクとなります。モデル賃金は、努力すれば到達可能な現実的なラインに設定することが鉄則です。

まとめ:モデル賃金を活用して強い組織を作ろう

モデル賃金は、単なる給与のシミュレーションではありません。それは、「会社が従業員にどのようなキャリアを描き、どのように報いていくのか」を示す、経営者からのメッセージです。

  1. 標準的な昇進をした場合の給与水準を示す指標である
  2. 理論モデルと実在者モデルの2種類がある
  3. 採用力の強化、定着率の向上、公平な賃金制度設計に不可欠である
  4. 東京都産業労働局などの公的データを参考に自社の立ち位置を把握する

これらを理解し、自社の実態に合ったモデル賃金を作成・公開することで、従業員は将来への安心感とモチベーションを持ち、企業の成長に貢献してくれるはずです。属人的な給与決定から脱却し、透明性の高い組織作りを目指しましょう。

人事評価・賃金制度の見直しにお悩みですか?

「自社に合ったモデル賃金の作り方がわからない」「公的データと比較して、自社の賃金制度をどう改善すればいいかアドバイスが欲しい」といったお悩みを抱える経営者・人事担当者様へ。

まずは、自社の賃金水準の無料診断から始めてみませんか?

専門の社会保険労務士や人事コンサルタントが、貴社の現状をヒアリングし、最適な賃金制度構築のためのアドバイスをご提供いたします。従業員が定着し、会社が成長するための制度設計を一緒に考えていきましょう。

[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]

無料メール相談のご案内

私たちは、中小企業に特化したパートナーとして、補助金、助成金、労務相談、労働・社会保険相談および経営改善といった労務・経営サポートを提供しています。現在、「無料メール相談」を実施中です。

貴社の強みを再発見し、貴社の課題を一緒に解決しましょう。

 

無料メール労務相談

関連記事