厚生年金保険制度(3)
厚生年金保険の実務手続きと運用対応
厚生年金保険に関する義務や手続きは、経営者や総務・労務担当者にとって重要な日常業務の一つです。正しい流れと書類の内容を理解しておくことで、手続きミスやトラブルを未然に防ぐことができます。
加入手続きの流れ
厚生年金保険に加入するためには、以下の手続きが必要です。
1. 適用事業所の届出
事業所が厚生年金保険の適用対象となった場合、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」を管轄の年金事務所へ提出します。
- 法人設立時:登記完了後すぐに届出
- 個人事業主が従業員を雇用し適用要件を満たしたとき:原則5日以内
2. 被保険者資格取得届の提出
従業員を雇用した際には、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出し、個人ごとの加入手続きを行います。
- 提出期限:資格取得日から5日以内
- 必要書類:個人情報、マイナンバー、雇用契約書等
3. 賃金に関する届出(報酬月額)
報酬に基づいて保険料が決定されるため、以下のような報告が求められます。
- 算定基礎届(毎年7月):4~6月の賃金をもとに、その年の標準報酬月額を決定
- 月額変更届(随時):報酬が大幅に変更された場合、変更月から3か月目に提出
- 賞与支払届(賞与支給時):賞与を支給した際に提出
4. 保険料の納付
保険料は原則として翌月末日までに納付します。納付方法は以下の2通りです。
- 口座振替(便利で確実)
- 金融機関での納付書払い
納付が遅れると加算金が発生するため、納期管理は厳格に行う必要があります。
離職・退職時の手続き
従業員が退職した場合にも、適切な届出が必要です。
- 被保険者資格喪失届:退職日(資格喪失日)から5日以内に提出
- 標準報酬月額変更:退職により報酬体系が変動した場合は、別途報告が必要
また、退職後の任意継続や国民年金への切替案内など、従業員への説明責任も重要です。
在職老齢年金と厚生年金の調整ルール
厚生年金保険には「在職老齢年金制度」があります。これは、年金受給者が働き続けながら報酬を得ている場合の年金調整制度です。
支給停止の仕組み
以下の計算式により、報酬が一定額を超えると老齢厚生年金の一部が支給停止されます。
基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-51万円※)÷2= 支給停止額
- 対象:60歳以上65歳未満の老齢厚生年金受給者
- 注意:2022年改正により、停止の基準額が見直され、将来的にさらなる緩和が検討中
- ※令和7年度の支給停止調整額
経営者が該当するケース
代表取締役などの経営者が年金を受給しながら報酬を得ている場合も、この制度の対象になります。高齢経営者の継続雇用を考える上で、非常に重要なポイントです。
年金制度改革の動向と将来の見通し
厚生年金保険制度は、年々制度改正が進められており、今後も持続可能性や公平性を確保するための動きが続いています。ここでは、近年の主な改革と今後予想される動向をまとめます。
最近の主な制度改正(2020年〜)
- 2020年改正:年金受給開始年齢の柔軟化(60歳〜75歳の間で選択可)
- 短時間労働者のさらなる適用拡大
将来的に検討される可能性のあるテーマ
- 保険料の負担方式の見直し:事業主・労働者の負担割合調整
- 基礎年金とのさらなる統合化
- インフレ対応型年金制度(賃金スライドなど)の導入
- フリーランス・自営業者の加入促進策
これらの動きに対応するには、常に最新の法改正情報をキャッチアップし、自社の就業規則や給与制度に反映することが重要です。
[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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