BEI(Behavioral Event Interview)とは?―中小企業の採用・配置・育成が変わる“行動事実”インタビュー
はじめに:なぜ今、BEIが中小企業に必要か
採用したのに早期離職、面接では高評価だったのに現場で伸びない――そんな「面接のミスマッチ」に悩む経営者・採用担当者は少なくありません。BEI(Behavioral Event Interview:行動事実面接)は、応募者や社員の過去の具体的な行動事実に焦点を当て、その思考・判断・価値観をあぶり出すインタビュー手法です。事前に誘導的な質問項目を並べるのではなく、成功・失敗を含む実体験の“物語”を深掘りすることで、将来の行動をより確からしく予測します。
中小企業にとっての価値は明快です。(1)採用の精度向上、(2)配属の適正化、(3)育成の優先順位明確化――限られたリソースで最大の人材投資効果を得られます。
BEIの基本:定義と考え方
BEIとは何か
- Behavioral Event Interviewの略。
- 面接官が特定の“誘導質問”を用意せず、候補者が自発的に語る過去の重要経験を軸に、事実・行動・結果・学びを詳細にたどる手法。
- 目的は、当人が重要だと見なす価値観や意思決定パターンを抽出すること。
従来型面接との違い
- 一般的な構造化面接:事前質問を並べ、Yes/Noや短答で比較評価しやすい。
- BEI:具体エピソードの深掘りが中心。表面的スキルより、行動原理・再現性に迫る。
なぜ“過去の行動”を問うのか
研究・実務の蓄積で、過去の行動は将来の行動の最良の予測因子の一つとされます。特に中小企業では、マニュアル化されていない局面が多く、自律的に考え、動けるかが業績を左右します。BEIはこの点に強い。
BEIの中核プロセス:STARで聞き切る
STARフレーム
S(Situation)状況/T(Task)課題/A(Action)行動/R(Result)結果 の順に具体化します。
深掘りの代表的プロービング
- S/T:誰が関与?制約は?成功指標は?期限は?
- A:最初に何を決めた?なぜその順番?他案は?リスクは?関係者への働きかけは?
- R:定量結果は?副作用は?関係者評価は?振り返りで何を変えた?
口述データの質を高めるコツ
- 具体名・数字・時系列を必ず引き出す(例:「売上を伸ばした」→「3か月で前月比+18%」)。
- 伝聞や推測(“だと思います”)ではなく当人の行為に焦点。
- 成功だけでなく失敗事例も1件以上聞く(学習能力の評価)。
実装手順:今日から始めるBEI
ステップ1—職務と行動特性(コンピテンシー)の定義
まずは職務ごとに高業績者の行動特性を言語化します。
例)営業職のコア特性
- 案件創出力(仮説構築→検証→継続改善)
- 関係構築・影響力(キーパーソン同定、反対意見の処理)
- 実行持続力(障害時の代替策、自己管理)
- 数値責任(KPI設計、差異分析、再現プロセス化)
- 学習・再現性(失敗の内省→仕組み化)
ステップ2—インタビュー設計(タイムボックス)
- 全体60分を目安
- イントロ5分(趣旨説明・同意)
- 成功事例20分(STAR深掘り)
- 困難事例20分(STAR深掘り)
- 追質問10分(対比・学習)
- クロージング5分(質問受付・次案内)
ステップ3—質問テンプレート(そのまま使える)
- 成功エピソード:「あなたが特に誇りに思う成果を1つ選び、発端から結果まで、実名や数値を含めて順に教えてください。」
- 「目標は何でしたか?どう測りましたか?」
- 「最初の1週間で何をしましたか?」
- 「関係者の反対や障害は?どう乗り越えましたか?」
- 「結果は数値で?他者の評価は?」
- 「次回は何を変えますか?」
- 失敗・挫折:「期待どおり進まなかった事例を1つ。どの判断が分岐点でしたか?なぜその判断?その後の修正は?」
- 再現性:「同じ状況が再発したら、最初の24時間で何をしますか?」
ステップ4—記録と評価(面接官2名体制推奨)
- 記録:逐語メモ+キーワード(数字・固有名・時系列)
- 評価:後述の行動指標ルーブリックで独立採点→合議
- バイアス低減:
- 序盤の印象に引きずられないよう項目別評点を先に固める
- 事実⇄解釈を分けてメモする(解釈は色分け)
評価設計:行動指標ルーブリック(例)
5段階行動指標(営業職例)
| 特性 | 1 不十分 | 3 標準 | 5 卓越 |
|---|---|---|---|
| 仮説→検証 | 仮説なし・偶然依存 | 仮説立案・一部検証 | 多案比較・素早いピボット |
| 関係者調整 | 受動的 | 対立点整理し合意形成 | 反対勢力を巻き込み推進 |
| 実行持続 | 障害で停止 | 代替策で継続 | 同時並行で複線化し短縮 |
| 数値責任 | 結果のみ把握 | KPI設計し報告 | 原因分解→再現手順化 |
| 学習再現 | 反省止まり | 学びを次に適用 | 組織へ仕組みとして展開 |
ポイント:エピソードに具体数値・固有名詞・再現手順が含まれるほど高評価。
採用・配置・育成での使い方
採用
- ジョブ要件に直結したBEIを実施 → ルーブリック採点 → 閾値未満は不採用など明確基準。
- 適性検査や課題プレゼンと相互補完させ精度を上げる。
配置
- 入社時・試用期間中に強み/弱みマップを作成。
- 対人折衝が強い人は新規開拓へ、分析優位の人は既存深耕へなど、強みに寄せた配属で立ち上がりを加速。
育成
- BEIで特定した伸ばすべき特性に紐づくOJT課題を設計。
- 失敗エピソードの学習化を1on1で支援。次回のSTAR設計まで伴走。
よくある失敗と対策
失敗1—面接官が“説教”する
対策:事実確認に徹し、価値判断は最後。**「なぜ?どうして?」**は行動理由の抽出に限定。
失敗2—抽象論で終わる
対策:「具体例を1つ」「最初の24時間で何を?」で具体に着地させる。
失敗3—成功談しか出ない
対策:困難・失敗も必ず1件。学習と再現性の肝。
失敗4—質問のブレ
対策:ジョブ要件→特性→問いの対応を固定。評価は特性別に行う。
失敗5—法令・倫理の見落とし
対策:職務適合に無関係な過度の私生活領域は質問しない。応募者の同意と目的明示、個人情報の適切管理を徹底。
導入ロードマップ(中小企業向け)
0〜1か月:準備
- 3職種までに絞り行動特性の仮説を作る。
- 質問テンプレ+評価シートを整備。面接官トレーニング(ロールプレイ2回)。
2〜3か月:試行
- 新卒・中途各5〜10名でパイロット。
- 合否と試用期間の実績を突き合わせ、ルーブリックを微修正。
4か月以降:本格運用
- 採用・配置・昇進面談をBEI基準で統一。
- 高業績者のBEIライブラリを社内資産化(匿名化・保護のうえ共有)。
事例イメージ(簡易)
成功エピソード
- 状況:新規販路の月間売上0→100万円を3か月で達成指示。
- 行動:仮説3案でABテスト→反応率の高い業界を深耕→キーマン紹介依頼。
- 結果:3か月で売上120万円、粗利率+5pt、副作用(既存顧客の対応遅延)をSLAで解消。
- 学び:仮説→検証→仕組み化のサイクルを2週で回すと勝てる。
→ 評価:仮説検証5、関係者調整4、数値責任5、学習再現5。
困難エピソード
- 状況:主要顧客の仕様変更で納期遅延リスク。
- 行動:工程を分解し並列化、要員を午前・午後で入替、顧客合意の中間納品を導入。
- 結果:遅延1日→0.5日に短縮、再発防止のチェックリスト化。
- 学び:合意形成の前倒しが最重要。
→ 評価:実行持続5、関係者調整5、学習再現4。
FAQ
Q1. 構造化面接と併用すべき?
A. 併用推奨。**要件適合(知識・資格)**は構造化、行動再現性はBEIが強い。
Q2. 面接時間が長くなるのでは?
A. 60分を上限に設計。2エピソード+追質問で十分な判定精度を確保できます。
Q3. 面接官スキルの個人差が心配
A. 質問テンプレ・評価ルーブリック・ロールプレイでばらつきを最小化。2名体制での独立採点が有効です。
まとめ:BEIは“人材の再現性”を見抜く強力なレンズ
- BEIは過去の具体行動から判断基準・価値観・再現性を浮かび上がらせ、採用の精度、配置の適正、育成の打ち手を高解像度で示します。
- 中小企業こそ、少数精鋭の採用で失敗できません。BEIの導入は最小コストで最大の人材ROIをもたらします。
[監修:社会保険労務士・中小企業診断士、島田圭輔]
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